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【特集】“テレビ”はどうなる?

【広告意思決定論】ブランド成長におけるテレビCMの役割

ROIが高いデジタル広告やSNS施策を拡大すればいいのでは?

 ここで、「ROIが高いデジタル広告やSNS施策を増やせば済む話では?」と思われたかもしれません。実際、多くの人がROIを成長の先行指標だと思い込んでいますが、バイロン・シャープ教授をはじめとしたエビデンスベーストマーケティングの識者は口を揃えて「ROIはブランド成長の先行指標にはならない」と指摘しています(Ambler, 2004; Binet & Field, 2017; Sharp, 2017)。

 どういうことか順を追って説明します。まず「TVCMをせずに伸びた」と引き合いに出される事例には、以下のようなパターンが見受けられます。

  1. 成功ブランドの初期成長を切り取って拡大解釈している
  2. カテゴリーやチャネル、メディアの成長トレンドにうまく乗った
  3. コピーやコンセプトが特定の文脈で想起されやすく、口コミが広がった
  4. アイデアベースだが、エクセスロイヤルティを備える商品・サービスだった
  5. 小売店(特にプライベートブランド)やECの場合

 たとえば、1で言うと、近年、特定の「デジタルチャネル×デジタルメディア」に集中してスモールスタートする企業をよく目にします。この戦略は、最低限かつ高効率でメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを組み合わせているため、最初は低コストで急成長しますが、6〜9ヵ月ほどで新規獲得費用が急上昇し、売上の踊り場に突入するケースも少なくありません。

 筆者のもとには主に消費財の新商品や事業開発文脈での相談が寄せられますが、日本では日用品の90%以上がオフラインで購入されるため、オンラインだけで獲得できる顧客層には限界があり、口コミや価格優位性で低認知商品を購入してくれる初期採用者層もすぐに飽和します。結果としていわゆる収穫逓減が起こり、成長過程のわりと早い時点で売上やシェアが停滞、それまでは強力だったパフォーマンス系の指標が、ROIを含め一気に低下するという現象が起きます。

 要するに、初期のROIが高いのは広告投資が少額だから、あるいは広告しなくても買う人にしかリーチしていないからに過ぎず、ROIが高いままスケールできるわけではないということです。

 これは商品力や担当者のスキルとは関係ありません。広告費(分母)は線形に増え、同一メディアやチャネル、セグメントからのリターン(分子)は特定の閾値を超えると逓減するという、ROIの立式上の問題です。実際、Amazonですらそうした閾値の存在が報告されており、認知の低い小さなブランドは初期に高い成長効率を示すものの、スケールするにつれてより広範な認知向上が不可欠になることが示されています(WARC, 2023)。

 つまり、デジタルネイティブなブランドにもマス広告は有用なのです。ちなみに本稿前半で「TVCMを止めるとどうなるか」という話をしましたが、ROIが極端に高いパフォーマンス系の施策を止めても売上がほとんど変わらないことはよくあります。

じゃあ、昔みたいにTVCMを大量投下すればいいのか?

 最近では「若者のTV離れ」も取り沙汰されており、リニアTVの視聴が減り、オンデマンド配信やSNS動画の利用が増えています。

 ただし動画コンテンツ自体の消費量は増加傾向にあるため、視聴機器や視聴方法の多様化とも捉えられますし、各国の視聴動態を見ても、高齢化諸国ではリニアTVが依然として高い視聴シェアを占めています。また、インプレッションベースではなくアテンションベースで見ると、リニアTVが有利だという話もあります。

 ではTVに全予算を投入すればいいのかというと、そういう極端な話ではありません。大規模広告主の場合、予算の半分近くを既にTVに投入していることも多いため、さらに増やしても劇的な効果は望めないと思います(i.e.収穫逓減)。

 重要なのは、カテゴリーや成長段階に合わせて、ブランド構築と購買喚起のバランス、媒体選択とその組み合わせ、予算配分、出稿スケジュール、クリエイティブの一貫性と独自性などを設計することです。EBMIではその辺りのエビデンス研究にも力を入れており、広告意思決定に関するガイドラインを広告主に提供しています。折に触れて、そうした各論もご紹介したいと思います。

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【引用文献】

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この記事の著者

芹澤 連(セリザワ レン)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、 心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。 非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、 化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。 エビデンスベースのコンサルティングで...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/10 11:46 https://markezine.jp/article/detail/48852

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