社内独自の制度やシステムも駆使して、インサイトを発掘

河口:はい、「イノベーションデイ」はイノベーティブな発想を生むためであれば週に1日、何をやっても良いとする仕組みです。その1日を、インサイト探しの実地調査のような形で使うことがあります。インサイトというのは、消費者の生活に直接紐づいているものなので、頭で考えることよりも、心で感じたり、共感できたりすることが大事だと考えています。
米田:あと、アサヒグループは、より簡易的にN1探索ができるよう、社員同士インタビューし合える社内システムも立ち上げられましたよね。
河口:はい。「ミツカル」という社内独自のシステムが活用されています。商品開発を進めていると、急にお客様の声が聞きたい場面が出てくることがあるのですが、そういう時にグループも含めた社内に募集をかけると、条件に合った人が手を上げてくれます。スピード感をもって、その人たちにインタビューをさせてもらえるというシステムです。
このシステムのおかげで、机上の空論に陥らず、その都度軌道修正をしながら商品開発を進められています。
N1インサイトを磨いて定番ブランドに進化した「ザ・ビタリスト」
米田:では続いて山田さん、最近発売された「ザ・ビタリスト」 についてご紹介ください。

2019年(中途)入社。3年間の営業を経て、新ブランド開発部に異動し、マーケティングを担当。現在はザ・ビタリストのブランドマネージャー
山田:ザ・ビタリストは、アサヒビールの定番価格帯の新ブランドとしては7年ぶりの商品です。名前の通り、ビールの味わいの本質である苦味というところに焦点を当てています。

山田:ターゲットとしては、これまで様々なビールを味わってきて、ビールに対する思い入れや経験値もあるというビール好きのお客様を想定しています。ただそれだけでなく、「苦みがあるからビールは好きではない」という若者に対しても、「この苦みだったらポジティブにビールが飲める」と思っていただけるように作りました。
元々ザ・ビタリストは、2年前の2023年に、新商品のテスト販売サイト「ASAHI Happy Project(現・アサヒ空想開発局)」の第2弾として、数量限定で販売された商品でした。 当時のコンセプトは、苦みを愛する大人に向けたビールでしたが、このテスト販売の際、ビール上級者のお客様だけでなく、女性やビールを始めたての若者からも、大変ポジティブな反応をいただきました。そこで「苦みを愛する大人」というN1から、もう少しいろいろな方々に向けた共通のインサイトがあるのではないかと考え、商品をブラッシュアップさせていきました。
米田:元々、ビタリスト開発当初のN1は研究所の所長でしたよね。
山田:はい、その方は硬派な印象ながら、実はご自身でも周りからの見え方を意識して振る舞っているそうで、たとえば、人前ではカフェラテは飲まず、あえてブラックコーヒーを飲むようなタイプ。ザ・ビタリストも、当初はそんなあえて苦いものを選んでしまう方が手に取りたいと感じるような商品を目指していました。
しかしその方向性を極めすぎてしまうと、どうしてもターゲットが絞られてしまい、「自分も飲みたい」という共感が広がりません。そこで、「ビタリストは苦みのビールである」から、「ビールとしてのうまさを支える要素としてビタリストが持つ苦みや香り、スッキリとした後味がある」とブランドの考え方の主従関係を変えることにしました。

山田:そこから、ザ・ビタリストをよりスケールさせるためには、ビールのうまさに、苦さや香り、パッケージなどをしっかり紐づけて考えることが大事だと思うようになりました。ただし最もユニークな部分は苦みなので、インサイトも実現したいブランドの世界観も、すべて苦みに紐づけるようにしないと、ビタリストらしいブランドとしての成長にはつながらないとも思います。