コモディティ化する採用施策
近年、採用市場は急激な変化を遂げています。企業の採用コストは上昇し、求人媒体や人材紹介会社への依存度も高まっています。こうした中で、採用活動の効率を高めるために、「採用ブランディング」や「広報」に力を入れる企業が増えてきました。noteやオウンドメディアで自社のカルチャーや働き方を可視化し、社外に発信する動きが活発になっています。
一方で、こうした取り組みがコモディティ化しており、表面的なブランディングや情報発信だけでは、他社との差別化が難しくなっています。求職者もまた、発信される情報を鵜呑みにすることなく、その背後にある実態を見極めようとしています。
今後必要になるのは「採用施策にとどまらない、会社全体へのブランド投資」でしょう。つまり、事業運営や組織づくり、人材育成といった企業活動全体において、一貫したブランド価値を反映させることで、間接的に採用効率を高めていくということです。たとえば、Patagoniaは「環境保護」というブランド価値を、事業や組織運営のあらゆる場面に組み込み、その一貫した姿勢に共感する人材が自然と集まっています。
そこで今回は、採用効率を高める全社のブランド投資のアイデアをご紹介します。まずは様々な企業の動向から、好例だと感じる取り組みを3つの切り口で見ていきましょう。
採用に効くブランド投資のアイデア3選
ブランド理解増進による社員のエバンジェリスト化

採用に効くブランド投資の例の1つ目は、「社員に対するブランド理解増進」です。社員が企業ブランドへの理解度を高め、深く共感する状態をつくることは、採用においても重要なポイントです。なぜなら、ブランドを理解した社員の発信は、企業からの発信以上に求職者の共感を生み出すからです。
たとえば、SmartHRでは社員によるnoteやSNSでの発信が非常に活発で、日々の業務や組織カルチャーに対するリアルな声が多くの人に届いています。さらに、2019年にスタートした「オープン社内報」(2022年9月休刊)は、まさに社員のブランド理解と発信力を象徴する取り組みでした。この社内報では、社員が自ら記事の企画出しや執筆を担当。編集チームによるチェックは最低限にとどめられていました。
それでも違和感なく社外に発信できていた背景には、社員一人ひとりがSmartHRのブランドや価値観を深く理解していたことが挙げられます。伝えたいことと、伝わって欲しいことの乖離が少ないからこそ、広報や編集の工数を最小限に抑えることができたのです。
社員のブランド理解増進によって、ブランドを体現するエバンジェリストを育て、社外に伝わるブランドメッセージを最適化することで、採用効率を高めた事例でした。
ブランドイメージと一貫したカルチャーや制度の構築

2つ目は、カルチャーや制度に関するもの。人事や担当者の頭を悩ませる大きな問題は「採用ミスマッチ」です。せっかく採用した人材がすぐに退職してしまっては、採用効率は高まりません。
ミスマッチの原因として大きいのは、外に発信しているブランドイメージと、実際に働く環境の不一致です。理想とする企業ブランドから落とし込まれたカルチャーや制度を設計することで、これを防げます。
たとえば、サイバーエージェントは「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンや、それを実現するためのバリューを策定し、様々な取り組みを通じて社内に浸透させています。また、Patagoniaは、パートタイムを含む全スタッフが環境活動をする際に有給を活用できる「アクティビズム休暇」など、ブランドを反映した様々な独自制度を設けています。
こうしたカルチャーや制度に対するブランド投資が、自社にフィットする人材を惹きつけ、採用ミスマッチや入社後ギャップの抑制につながるのです。
ブランド価値を反映したプロダクトやマーケティングによる採用母集団の形成

プロダクトやマーケティングにおけるブランド投資が、中長期的に採用につながるケースもあります。たとえば、iPhoneの美しいデザインや革新性に魅了され、「Appleの一員になりたい」と感じた人は少なくないと思います。また、最近の日本企業でいえば、サントリーが2024年に公開した「サントリー天然水」の新TVCM「大自然を味方に」篇は、環境への取り組みや企業理念を強く印象付け、多くの人々に共感を呼び起こしました。
このように、プロダクトやマーケティング活動を通じてファンを育てることは、必ずしも短期的な採用成果には直結しないものの、中長期的には魅力的な採用母集団の形成につながります。採用のためだけのブランディングではなく、社会とのあらゆる接点においてブランドの一貫性を保つことが、結果として採用の効率を高めることにつながるのです。