定性調査のレポート作成は“創造的プロセス”
定性調査は、数値では見えない「人の気持ち」や「価値観」を読み解くための手法であり、分析とレポート作成には多くの時間と労力を要します。特に、対象者の発言をどう読み解き、どのようなファインディングスに落とし込むか。そして、それをどう表現すればレポートの読み手に正しく、魅力的に伝えられるか。こうしたプロセスは、人間のリサーチャーによる“創造的なプロセス”であると、我々は考えてきました。
しかし、生成AIの進化により、こうした“人間にしかできない”とされていた領域にも変化の兆しが見え始めています。今回、私たちはZ世代・ミレニアル世代100人のインタビューデータを用いて、生成AIが定性調査のレポート作成工程にどこまで貢献できるかを検証しました。
使用したデータは、以前公開した《「ペルソナ」を作ると失敗する? Z世代向けマーケティングの勘違い》の元となったインタビューのテキストデータです。「Z世代(15歳~25歳)」60名、「ミレニアル世代(26歳~39歳)」40名にインタビューをし、「SNSをどのようなものと捉えているか」「理想とする将来像の有無・その内容」「自分たちの世代の多様性に関する考え方」等について世代間比較をし、Z世代向けのマーケティングについて示唆を得る調査です。なお、今回のインタビューについては、インタビュー参加者から事前に「生成AIにデータを読み込ませる」ことについて同意を取得した上で実施しています。
人間のリサーチャーが担ってきた“創造的プロセス”
まず、人間のリサーチャーが従来どのようにレポートを作成していたかを紹介します。
たとえば、インタビューで「目指しているor理想としている人物はいるか。それはどんな人か」という質問に対して、Z世代から以下のような発言があったとします。
「あえていうなら母親ですね。仕事もして、帰ってきて私のごはんも作ってくれて…。大変なのにいつも笑顔なのがすごい。自分も将来そうなりたい」
「地元でバンド活動をしているグループのボーカルです!その人の母校が自分が通っている高校と一緒で…。ファンとの距離が近くて、自分もその人と話せたんですよ!!」
この発言を、そのまま「Z世代の理想の人物像は“母親”や“先輩”」とだけまとめても意味はありません。重要なのは、この発言の背景にある「到達可能性」「等身大感」「手本としての機能」などの要素を読み取り、レポートの読み手に誤解なく伝えることです。

このように、発言の意味を読み取り、複数の発言から「共通の構造や傾向」を導き出し、それを適切な言葉で表現することが定性分析の本質です。たとえば今回の調査では、「Z世代は“到達可能な人物”を理想とし、ミレニアル世代は“憧れの存在”を挙げる傾向がある」というファインディングスを導出しました。
この作業は、発言をExcelで一覧化したり、ホワイトボードやノートで分類・構造化しながら行う、時間も労力もかかる“創造的プロセス”です。分析に合う適切な言葉を書いては消し、書いては消しを繰り返し、文章にまとめていきます。

そのように文章化したファインディングスは、レポートに記載する際には下図の「サマリーセンテンス」として表現することが多いです。今回は、このサマリーセンテンスが、生成AIにも出力できるのか、検証しました。
