「低アル」「脱アル」ではなく「微アル」にした理由
米田:今日は博報堂の中川さんと吉岡さんに、インサイトをテーマにお話をうかがいます。
中川さんとは、アサヒビールの“微アルコール”飲料「BEERY(ビアリー)」のプロジェクトでご一緒させていただき、MarkeZineの別の記事でも対談させていただきました。
中川:ビアリーはアルコール0.5%のビールというとても画期的な商品で、この特徴をなんと表現するかが1つの鍵となりました。海外では「ローアル」という呼称があり、日本でも「低アル」という言葉があります。ビアリーに使われている「一度ビールを作ってからアルコール分だけを抜く」という「脱アル製法」を伝えるために「脱アル」と呼ぶという考えもありました。でも、「低」や「脱」という言葉は、なんとなく「マイナス」のイメージがあるため、ビアリーの美味しさにそぐわないということで、別の言葉を必死で考えました。
博報堂 マーケットデザイン事業ユニット クリエイティブ局 エグゼクティブクリエイティブディレクター
大学卒業後、メーカーのエンジニアとして携帯電話の開発に携わった後、2008年に博報堂入社。現在は、ECDとして広告のみならず、事業、商品、デジタルサービスと領域を超えて得意先に寄り添っている。アイデアによって事業が成長し、人々を幸せにする新しい文化が根付いていくことを志している。「カイタイ新書」「本能スイッチ」を出版。ACC Marketing Effectiveness部門審査員
米田:そこで「微」に行きついたんですよね。「微糖」や「微炭酸」のように、少しだけ甘い、少しだけ炭酸といったポジティブな連想を生む表現を応用し「微アル」という新しい言葉を使うことになりましたよね。ブランド名の「ビアリー」は、その延長で生まれました。
中川:日本語には「微熱」「微笑」といった、控えめながらも肯定的に受け取られる言葉が数多くあります。この文化的背景を捉えて「微アルのビアリー」という言葉を生み出せたのは非常に楽しかったですね。微アルとビアリーという言葉が韻を踏んでいることも、商品名を残す上でポイントとなりました。また、「微アル」という言葉が生まれたことで、消費者の期待値をポジティブに設定できただけでなく、得意先社内でも方向性が明確になり、部署をまたいで同じマインドで動き出したのもよかったと思います。
若者 × 健康飲料で発見したインサイト
米田:では吉岡さんにお話を伺います。中川さんに「インサイトに強い方を」とお願いして吉岡さんをご紹介いただきました。
中川:米田さんが以前、ご自分は「インサイトクイーン」と呼ばれているんだとおっしゃっていましたが、吉岡は言うならば「インサイトモンスター」ですね(笑)
米田:そうなんですね!お会いできて嬉しいです。そんな吉岡さんがこれまでのお仕事の中で、特に印象に残っているご経験をお話いただけますか?
博報堂 マーケットデザイン事業ユニット クリエイティブ局 中川チーム マーケティングプラニングディレクター
2017年に博報堂入社。飲料・食品ブランドの商品開発やブランド戦略立案、老舗企業のリブランディング、旅行ブランドのコンセプト開発などブランディング領域に従事したのち、2020年からは博報堂海外拠点と協働して台湾やASEAN諸国における日系企業の海外マーケティング・コミュニケーション支援やデジタル接点開発に取り組む。現在はクリエイティブチームにて生活者洞察と言語化を強みに、事業・ブランド戦略から体験施策設計まで一貫したプラニングを手掛ける。Cannes Lions The Brief #4 Longlist入賞(2024年)
吉岡:以前、若者向けの健康飲料開発に携わったことがありました。当時は50代、60代が飲むイメージが強く、若い世代には浸透していませんでした。そこで20代を中心にグループインタビューを行ったのですが、聞いていくうちに、「健康」に対する時間軸の違いが浮かび上がってきました。
50代以上の層は「10年後、20年後の健康を考えて今から良いものを摂る」という発想をしていたのに対し、若者は「明日の自分がきれいかどうか」など、即効性を求める視点を持っていたのです。
米田:それはおもしろいですね!そのグループインタビューについて詳しくお聞かせいただけますか?
吉岡:弊社のグループ会社でインターンをしていた大学生に、普段飲むものをテーマにディスカッションしてもらいました。そこで注目したのは、彼らが話す「明日の予定に応じて飲み物を使い分ける」という言葉でした。たとえば「明日デートならお酒は飲まない。むくむから」という意見があり、そこから「明日の健康を意識する=明日の自分をより良く見せたい」というインサイトを導き出しました。私は当時入社1年目で、若者の一人としてモデレーターを務めていたのですが、今も印象に残っている仕事です。
ちなみにこのときの調査は、クライアントがインタビュー対象者と接触しない通常のグループインタビューと違い、クライアントも同室で様子を観察し、気になればすぐ質問できる形式で進めました。
米田:私も、グループインタビューはミラー越しに聞くのではなく、クライアントが対象者さん達からリアルに話を伺う、そのスタイルが大好きです。以前、ブランドAのユーザー3人、ブランドBのユーザー3人、ブランドCのユーザー3人を大きめの会議室にお呼びして、テーブルを3つ用意してブランド別のテーブルに座っていただき、クライアントは自由に各テーブルを回って様々なお話を直接お聞きする、みたいな方法もやりました。すると、「各テーブルによって見るからに対象者の方の服装や雰囲気が違う=各ブランドユーザーの価値観の違いが明確に比較できる」、みたいなことまで観察できて、とても好評でした。
