選手目線を理解し、伝え、巻き込む
飯髙:森谷さんは選手としてイベントに出ていたことがあり、今は事業側の立場の経験もされています。川崎フロンターレが主催するイベントに対する見え方として、どのような変化がありましたか。
森谷:実は、そこまで大きな変化は感じていません。選手時代から、川崎フロンターレの大切な取り組みだと理解していましたし、事業部が頑張ってくれているからこそイベントが成り立ち、クラブの価値を高めることにつながっていると感じていました。
私が選手だった頃は、先輩たちがプレー以外の活動にも積極的に取り組む姿を見せてくれていました。一方で、今の若い選手たちの中には、明確な理由がないと動けない人もいます。そのため、なぜプレー以外にこの活動が必要なのかを理解してもらうことがとても重要だと思っています。そこで、広報の森澤とも相談しながら私自身が直接的に選手に伝えることもありますが、それ以上に事業側の人たちをうまく巻き込みながら、間接的に伝えていくように工夫しています。そうすることで、選手と事業側の人たちとの接点が生まれ、事業側の想いも自然と伝わっていくと考えています。

加藤:事業部の立場からだけだと、選手たちに思っていることをうまく伝えられません。森谷さんのように、選手のことを理解していて、近い距離から伝えてくれる存在は、とてもありがたく感じています。
飯髙:元選手の森谷さんが選手とスタッフの間に入りコミュニケーションをとることで、選手もクラブの活動に対してより前向きに向き合っていくことにもつながっているのでしょうね。試合に勝利することはとても大事なことですが、選手がクラブや地域に関わることはとても大切だと思います。
2025年は「体験満足度の向上」がテーマ
飯髙:最後に、2024シーズンと比較しつつ、2025シーズンの展望を教えてください。
加藤:2025シーズンは「満員プロジェクト」の会議に、オブザーバーとして興味のある人は誰でも参加していいことにしていて、多いときには20人近くが参加します。

また、2024シーズンは「全試合を満員にする」ことがテーマでした。2025シーズンはさらに、「満員にしつつ、より体験の質を高める」ことをテーマにしており、ハードルが上がりました。集客だけではなく、来場者の体験満足度を向上させる必要があります。
そこで2025シーズンは、来場者アンケートから、たとえば「トイレをもっとキレイにしてほしい」などを汲み取って、スタジアム・ホスピタリティを高めるようにしています。他にも、「また来たい」と思ってもらうためのベースを固めるようにしています。
飯髙:すべての前提として、満員=売上ではなく、スタジアムに足を運ぶファンを増やして雰囲気を良くし、選手たちの気持ちが高揚し、結果的にファンの満足度向上にもつながることを考えているのですね。
ACLでの敗戦がきっかけの一つではありつつ、よりチームもファン・サポーターも一つになることの重要性を知ったことが大きいと感じます。「プレイしている選手にとって、何が一番いいか?」を考え、横断で取り組み、手探りしながら様々なアイデアを持ち寄り施策を実施していった結果が、平日の夜という集客が難しい試合での動員数増加につながったのだと思います。
どんな企業でも同じで、高い目標を設けて、メンバーが同じ目線を持ち、まずは必死に動く。結果的に目標を達成できると、その成功体験から、次も次もと回っていくのでしょう。
シンプルな話ですが、それをやりきる力がフロンターレにはあって、そこは当たり前ではないと感じます。企業は従業員・お客様・サービスのすべてにおいて、本気でどこまで向き合えるかが重要です。表面的に「あの会社でこの施策が上手くいっているからやろう」と進めるだけでなく、どこまで自分たちを信じてやり続けられるかが重要だとわかる取材でした。
本日はありがとうございました。