多数のブランドを有する、味の素ならではの工夫とは?
続いて、各社の活用状況が明かされた。金子氏によれば、味の素では個別のコミュニケーション活動や量販店での販促設定が売り上げに対してどれほど貢献したかを確認している。
「個々の媒体の深掘りもしており、たとえば時系列での変化を見ています。クリエイティブを変更することもあるので、その影響なのか、あるいは展開方法の違いなのかといった点の読み解きは難しいですが、それらを比較しながら出稿の継続や終了の判断をしています」(金子氏)
その他、出稿タイミングや量を最適化する「フライトパターン」の検討や、「気温とスープの売り上げ」といった外的要因の影響分析も行っている。
合わせて金子氏は、年間約10ブランドでMMMを行っていることを活かして、ブランド間の横比較も行っていると明かした。
「モデル構造が異なるため厳密な比較は難しいですが、『コミュニケーションが効きやすいブランド』と『店頭施策が効きやすいブランド』の傾向を把握することで、新しい施策の参考指標としています。たとえば、同じYouTube活用でも効果に差が出るブランドがあり、その違いを学び合うきっかけにもなっています」(金子氏)
一方で、数字の扱い方には注意が必要だという。MMMは統計的に厳密に行うものという印象が強いが、金子氏は「0.1%の変化を深読みするより、大きな傾向を捉えるべき」と強調。数字はあくまで指針であり、他の調査や担当者の感覚と組み合わせて活用する姿勢を社内に浸透させているという。
ピザハットでは、地域ごとの差が明らかに
日本ピザハットでは、MMMを導入したところ、二つの興味深い知見が得られた。まずはオフライン広告とデジタル広告の貢献度について、テレビCMの貢献度は高く出るものの、費用対効果で見ると必ずしも効率的ではないことが明らかになった。ポスティングは獲得単価が高騰しており、貢献度はあっても効率は悪い状況だった。
一方で、効果的な施策はデジタル広告側に多く見られ、可視化によって「デジタルに注力すべき」という方向性が裏付けられた。
「ピザハットは業界内で2番手~3番手の立ち位置で、競合他社は圧倒的な店舗数と広告力を持っています。そこで私たちデジタルの部署は、X(旧Twitter)、Instagram、TikTokといったデジタル媒体を駆使し、接点を増やして第一想起の獲得を目指してきました。MMMによってデジタルの効率性が可視化でき、その方向性に手応えを感じました」(薮内氏)
もう一つは、MMMによるシミュレーションを通じて、媒体ごとの貢献度には地域差があると明らかになったことだ。
「関東ではテレビのGRP単価が高く、費用対効果が良くないためデジタルに予算を配分するほうが有効である一方、関西ではテレビを一定量維持するほうが良いという示唆が得られました。これに基づき、地域ごとに広告配分を調整する戦略が可能となりました」(薮内氏)
同社では現在、MMMを四半期ごとに実施している。春夏秋冬のキャンペーン単位で分析を行い、特にボリュームが大きいクリスマス期の集中投資が最適かどうかも検証した。広告獲得単価を指標にPDCAを回し、シミュレーション結果を次の施策へと反映させる運用サイクルを築いている。さらにテレビCMについては、クリエイティブごとの効果を可視化し、どの表現が成果に結びついたかを検証することも重視している。
