データが示す「F1人気再燃」の実態
数字を見れば、F1人気が再燃していることは疑いようがない。国際調査会社ニールセンによると、2024年の世界的なF1ファンは8億2,600万人に達し、わずか1年で9,000万人増加した。これは+12%という異例の伸びであり、特に中国(39%増)、カナダ(31.5%増)、サウジアラビアやアルゼンチン(25%超)といった新興市場で顕著である。
イベント現場の熱気もかつてない水準にある。2025年前半の14戦で観客数は累計390万人を突破。うち11のグランプリは全席完売となり、6つの開催地では過去最高動員を記録した。とりわけオーストラリアGPの46万5千人という数字は、F1史上4番目に多い動員であり、地元経済への波及効果も絶大であった。
メディア指標も右肩上がりだ。米国では2025年シーズンのテレビ視聴率が前年から17%増加し、12戦中11戦で前年を上回った。さらに公式YouTubeのハイライト動画は2億3千万回以上再生され、米国だけで3,150万回の増加を記録した。こうしたデジタル上の熱量は、若い世代が「レース全編を見なくても、ハイライト動画などで気軽に参加する」という新しい観戦スタイルを確立していることを示している。
かつての低迷と現在のギャップ
F1は常に世界的な人気を保ってきたわけではない。90年代のセナやシューマッハの時代には黄金期と呼ばれる熱狂があったが、2000年代半ば以降は徐々に陰りが見えていた。レース展開が単調になりやすく、強豪チームの独占が続いたことで「勝者が決まっている退屈なスポーツ」との批判が高まったのである。加えて開催地がヨーロッパに偏っていたため、世界的な人気拡大には限界があった。
日本でも2000年代後半から2010年代にかけては視聴環境の変化が痛手となった。地上波での放送が減少し、CSや有料配信に移行するにつれてライトファンが離れていった。鈴鹿サーキットの現地観戦は根強い人気を保ったものの、一般層にとっては「かつての憧れが遠ざかった存在」となっていた。
この時期、F1は世界的にも「古いスポーツ」「中高年の趣味」と揶揄されることが少なくなかった。実際、2017年にリバティ・メディアがF1を買収した当時、国際的なファン調査では平均年齢が40代半ばに達し、若年層との接点を失っていることが問題視されていた。新規ファンの獲得が進まず、スポンサーの高齢化も進行。収益面でも将来性への懸念が取り沙汰されていた。
ところが、わずか数年で状況は一変した。Netflixの『Drive to Survive』シリーズをはじめとする映像コンテンツ戦略、SNSを活用したデジタル発信、そしてアメリカ市場への積極的な進出が功を奏し、若い世代や女性層を中心に新たなファン層が急拡大したのである。

かつて「おじさんのスポーツ」と見なされていたF1が、今や「30代が夢中になるカルチャー現象」へと変貌した背景には、この低迷からの大きな反転がある。