買い物回数を減らしても支出増。データが示す「節約の限界」
生活者一人あたりの買い物金額は、前年同月比で7月は101.5%、8月は101.1%となり、支出はわずかに増加しました(図表3)。一方で、買い物回数は前年同月比で7月が98.9%、8月は97.8%と、2ヵ月連続で前年を下回っています(図表4)。
これらのデータから、生活者は買い物に行く回数を減らすことで支出を抑えようとしたり、猛暑の影響で外出機会が減ったりしても、それ以上に各商品の値上がりが影響し、結果的に全体の支出額が増加してしまっているという厳しい状況がうかがえます。
チャネル別に詳しく見ていくと、7月は全チャネルの中で唯一「ドラッグストア」だけが買い物回数前年比101.0%と前年をわずかに上回っています。ドラッグストアは夏場にかけてニーズが高まる制汗剤や日焼け止めなどを販売していることや、店頭でもセールを数多く行っていることから、生活者が少しでも安い店舗や業態を求めている様子がうかがえます。
一方、8月は全チャネルで買い物回数が前年を下回りました。価格上昇による買い控えに加え、例年より早い梅雨明けによる強い日差しの影響で、外出自体を控えた家庭もあったのかもしれません。
9月以降も残暑が続けば、実店舗への客足は伸び悩み、自宅で買い物が完結する「通販・ネット」チャネルの利用がさらに拡大する可能性があります。加えて、2025年10月からは「ふるさと納税」のルール変更が予定されており、駆け込み需要による通販チャネルへの影響も注目されます。
高騰の夏、それでも消費者のカゴに入ったモノは?
カテゴリ別の市場動向を確認すると、8月はいずれのカテゴリも前年より拡大しました(図表5)。
特に食品は値上げ品目が多く、長期的にも緩やかな拡大傾向が続いています。飲料も夏場に向けて4月から綺麗な右肩上がりを示し、価格増に需要増が重なり、市場に勢いを感じさせます。
ヘルスケアカテゴリは7月に前年を下回りましたが、これは医薬品の減少が背景にありそうです。昨年は6月中旬以降で新型コロナウイルスの流行が訪れ、咳止めや解熱剤の需要が一時増加したことが要因として考えられます。
続いて、7月度・8月度それぞれの好調カテゴリを見ていきましょう。
【7月の売れ筋】米とコーヒー、猛暑対策品が好調
7月のトータルでは、直近に引き続き、米がどのチャネルでも高い順位にランクインしました(図表6)。しかしチャネルトータルの購入金額前年比は前月の173.9%から155.5%に下がり、備蓄米の放出によって米全体の購入単価が下がった影響が見られました。
一方、コンビニエンスストア(CVS)では普段はあまり店頭に並ばない米が販売され、高い前年比となっています。
大分類「飲料」の2~3位にランクインした「インスタントコーヒー」「レギュラーコーヒー」は、大手メーカーの値上げが影響し、前年比増につながったと考えられます(図表7)。
こうした嗜好飲料は、価格が上がってもこだわりを変えることが難しく、他ブランドへのスイッチが起きにくいという、嗜好品ジャンルならではの動きが見受けられました。
大分類「雑貨」の2位に入った「その他男性用化粧品」には、夏場の汗対策としてよく使われるボディシートが含まれています。前年より10ポイント以上伸長しており、平年より早い梅雨明けによる厳しい日差しの影響が伺えます。
同じく雑貨分類では洗濯用洗剤も前年比が増加しました。汗によって洗濯物が増え、洗濯回数が増加したことが需要増につながったと考えられます(図表8)。
【8月の売れ筋】掃除用品やお盆需要が消費を後押し
8月においても、トータルランキングTOP10に米がランクインしました(図表9)。
しかしトータルの前年比は7月の155.5%から116.9%にさらに下がり、備蓄米の放出によって購入単価が下がった影響が背景にあります。また「インスタントコーヒー」「レギュラーコーヒー」も7月に続いてランクインしました。
同じ大分類「飲料」では「麦芽飲料」「ココア」「豆乳」といった飲料が並びます。コロナ禍以降、栄養素に注目が集まり「麦芽飲料」は定期的に話題に上がります。飲料ジャンルは手軽に継続的に摂れる点から、健康志向との親和性が高いのかもしれません。
大分類「雑貨」では「住居用クリーナー」「バス用クリーナー」「住宅用ワックス」など掃除用品が多くランクインしました。気温上昇によって排水溝などの匂いが気になったり、お盆前後に大掃除を行ったりした生活者が多かったと考えられます(図表10)。
猛暑による外出控えで家にいる時間が増え、汚れに気づきやすくなったことも需要を押し上げたと見られます。気象要因が生活者の消費に直結する様子が改めて浮き彫りになりました。
