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5年で売上20倍「ARAS」のMeta広告戦略 獲得広告の“伸び悩み”を打ち破った2つの方針とは?

 「獲得」だけにフォーカスしたデジタル広告は、いずれ限界を迎える――。5年で売上約20倍へ急成長した食器ブランド「ARAS(エイラス)」もまた、この「獲得のジレンマ」に直面していた。そこで広告戦略を見直した結果、ROASが前年比51%改善、サイト訪問数は169%増という成果を実現したという。改善の鍵となったMeta広告の「クリエイティブ多様化」と「ファネル戦略」、そして広告運用の「インハウス化」の取り組みについて、石川樹脂工業の石川勤氏とMeta ストラテジックアカウントマネージャーの田島なおみ氏に聞いた。

5年で20倍の成長を続ける食器ブランド「ARAS」

――はじめに、主力ブランド「ARAS(エイラス)」について教えてください。

石川:「ARAS」は、ガラスと樹脂を掛け合わせた独自素材によって、「1,000回落としても割れない」という機能性を持ちながら、日々の食体験が豊かになるような色や形を追求した食器ブランドです。作り方から売り方までゼロから設計し直し、「食器の概念を覆したい」という思いでスタートしました。

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石川樹脂工業株式会社 専務取締役 石川勤氏
P&Gで約10年間勤務した後、家業である石川樹脂工業を継ぐ。現在、自社ブランド「ARAS」などの製品開発・販売を主導している

石川:ありがたいことに、ブランドが誕生した2020年から成長を続けており、初年度に約1億円だった売上は、現在20億円に迫る規模になりました。今では会社の事業の7〜8割をARASが占めています。

――急成長を支えたマーケティングとは?

石川:地元・石川県ではテレビCMなども展開していますが、ブランドの立ち上げ当初からマーケティングの中核は一貫してInstagramです。今ではフォロワー数が32万人を超え、日本の食器ブランドというカテゴリーでは最大級のアカウントに成長しました。

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ARASのInstagramアカウント
※クリックすると拡大します

 Instagramは、ARASが提供する“映える”食体験との相性の良さはもちろんですが、「好きなものは好き」と誰もが胸を張って言えるような、平和なコミュニティを築けることが魅力です。今では、当社にファンの方を招いたオフ会を開催したり、熱量の高い方々とパートナーシップを組んで広告を配信したりと、双方向のコミュニティの場としても活用しています。

「獲得中心」のアプローチによるパフォーマンスの伸び悩み

――2024年10月の広告戦略見直しの背景には、どんな課題があったのでしょうか。

石川:当時は獲得目的のローワーファネル向け広告に特化して配信していました。ROASは維持できていたものの、新規リーチ数は減少傾向にあり、将来的な先細りが懸念されていました。

――田島様は、その課題をどう分析されていましたか。

田島: データ上でも、配信先が「既存リーチ」に偏っていることは明白でした。パフォーマンスを向上させるためには、足元の改善だけでは不十分です。そこで、ファネルを拡大し、これまでアプローチできていなかった層にリーチを広げるご提案をしました。

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Meta ストラテジックアカウントマネージャー 田島なおみ氏

石川:田島さんからご提案いただいたのは、大きく2つでした。1つは、「ミドルファネルの強化」。ARASを聞いたことはあるが詳しくは知らない層に向けて、ブランドの解像度を上げるアプローチです。

 2つ目が「クリエイティブの多様化」です。これは、僕たちにとって、大変重要な示唆となりました。現在のMeta広告は、クリエイティブそのものがターゲティングの役割を担っています。つまり、これまでは年齢や興味関心などでターゲティングしていましたが、今はAIがクリエイティブを見て最適な人に届けてくれる。

 だからこそ、1つの世界観に固執するのではなく、多様な価値観を持つ人々に響くクリエイティブを、質・量ともに用意することが重要です。この考え方は、これまでテレビCMを手掛けてきた実績がある、当社のクリエイターチームにとって新鮮でした。

ブランドの解像度を上げる多様なクリエイティブ

――新たな方針のもと、具体的にどのような施策を実行されたのでしょうか。

石川:最大の商戦である初売り(2025年1月1日~13日)に向けて、2024年の10月からファネル別のクリエイティブ制作を本格化させました。

 ミドルファネル向けには、ブランド解像度を上げるクリエイティブを制作。たとえば、デザイナー自身が顔出しで商品のデザインに込めた意図を語る動画や、インフルエンサーによるARASを使ったテーブルコーディネートの解説動画などです。他にも、セールのお祭り感を演出するものから、お皿に目や手をつけたパペット風の動画まで、とにかく多様なクリエイティブを試しました。

インフルエンサーを起用したパートナーシップ広告のクリエイティブ
お皿に目や手をつけたパペット風のクリエイティブ

田島:これは、「クリエイティブマルチプライヤー」という考え方で、ブランドの世界観や製品の良さを多様な面から伝えるべく、訴求軸と広告フォーマットを変えた多様なクリエイティブを、かつ大量に用意することでAIの学習を加速させ、パフォーマンスを最大化させるものです。

――配信設定では、どのような工夫をされましたか。

田島:鍵となったのは、Metaの自動化ソリューション「ASC(Advantage+セールスキャンペーン)」 の活用です。ASCは、AIが最適な配信先やクリエイティブの組み合わせを自動で判断する機能で、従来の手動設定に比べて効率的に成果を上げられます。

 ARASではこれまで「購入」目的のASCを活用していましたが、今回はそれに加え、『コンテンツビュー』目的のASCも並走させました。これは、商品を閲覧する意欲が高いユーザーにリーチし、質の高いサイト訪問を増やすことが狙いです。

 この2つを組み合わせることで、「今すぐ購入したい層」と「これからファンになる可能性のある潜在層」双方への効率的なアプローチが可能になります。

石川:これらの仕組みを最大化させるために、10月から12月にかけて精査してきたクリエイティブを、初売り期間に一気に投入しました。ASCのAIが学習を重ねることで、それぞれのユーザーに最適なクリエイティブが届く状態を作れたと思います。

初売りセールでROAS+51%、工場のキャパを超える「嬉しい悲鳴」

――成果はいかがでしたか?

石川:大成功でした。初売り期間のROASは前年比で51%改善、サイト訪問数は169%増を記録しました。想定を超える注文で工場の生産キャパシティが限界に達し、泣く泣く配信をセーブせざるを得ないほどの反響でした。

――なぜこれほどの成果につながったのか、成功の要因を分析いただけますか。

田島:ファネル戦略と、それを支える「クリエイティブの量と質」がかみ合ったことです。ターゲット心理に合わせたクリエイティブが用意されていなければ、戦略の効果は半減します。キャンペーン設計とクリエイティブ戦略を分断せず、一体で考え抜いた点が勝因だと考えています。

石川:チームの決断力とPDCAの速さも大きかったと思います。10月に方針を決めてから、わずか3ヵ月で初売りという大勝負に臨めたのは、チーム全員がファネル戦略とクリエイティブ多様化の重要性を理解し、同じ方向を向いて走れたからです。

インハウス化で代理店費用をクリエイティブに再投資

――現在、広告運用をインハウスへ移行されたそうですが、どのような背景があったのでしょうか。

石川:初売りの成功を経て、「もはや大事なのは運用テクニックではなく、クリエイティブそのものだ」という結論に至りました。ASC中心の運用環境では、成果の7〜8割がクリエイティブの質と量に依存します。そのため、代理店に依頼していた細かい運用調整よりも、内製によるクリエイティブ制作の強化に投資すべきだという判断に至ったのです。

田島:インハウス化にあたっては、「最適化スコア」をご利用いただきました。この機能は、いわば広告アカウントの健康診断のようなもので、広告アカウントの状態を0〜100点で評価し、パフォーマンスを上げるための推奨アクションをAIが提案します。

画像を説明するテキストなくても可
「最適化スコア」の画面イメージ
※クリックすると拡大します

田島:最適化スコアには、テストによりキャンペーンのパフォーマンス向上が実証された推奨事項が表示されます。ARASのインハウス化の初期フェーズでも、社内で何を具体的にアクションすべきか、迷った時にも指針として非常にうまくご活用いただいていました。

石川:インハウス化当初は、特に参考にしました。ただ、提案を鵜呑みにするのではなく、田島さんに相談しながら提案の意図を深く理解した上で活用するようにしています。

――クリエイティブの制作体制はどのように構築されているのですか。

石川:クリエイティブ制作のパートナーとチームを作り、月に50〜100本のクリエイティブを制作しています。ファネルや訴求内容によって最適解は変わるので、まさに「答えなき戦い」です。

 だからこそ、配信結果を基に一緒に考える体制が不可欠だと感じています。パフォーマンスが良い時は放置して、悪い時にはチームで深く議論しクリエイティブ改善につなげています。

――インハウス化を実践して感じた課題はありますか。

石川:1つ難しいのは、社内の「規律」をどう保つかです。代理店がいると月次レビューなど振り返りのリズムが生まれますが、内製だけだとどうしても甘えが出てしまう。現在は定期的にMetaの担当者の田島さんと壁打ちする機会を設けたり、チーム内で週次の振り返りを徹底したりと、オペレーティングディシプリンを保つ工夫をしています。

テクノロジーの先に描く、ものづくりと地域の未来

――今後の展望についてお聞かせください。

石川:今回の成功は、テクノロジーを正しく理解し活用できたからこそです。次は、この学びを商品開発やブランド体験全体に広げていきたいと考えています。

 僕たちが大切にしているのは、故郷・石川県加賀市のものづくりの未来です。消滅可能性都市に指定された地域の伝統技術を、どう次世代につなぐか。そのために、AIなど最新のテクノロジーを貪欲に取り入れていきます。

 ただ、忘れてはいけないのは「何のために使うのか」という思いです。テクノロジーに踊らされるのではなく、僕らの技術や地域の文化とどう組み合わせるか。AIを見るほど「人の価値とは何か」を問われ、僕らの思想が試されていると感じます。

田島:今回のARASさんの事例が示すのは、「テクノロジーは手段であり、その先の目的が重要」ということです。私たちは、パフォーマンス向上のノウハウだけでなく、広告主様がビジネス戦略を描く際に 「なぜその施策を行うのか」 「どんな顧客に届けたいのか」等を明確にしながら、ブランドにとって最適な広告活用をご支援したいと考えています。

石川:我々のような中小企業でも、正しくテクノロジーを理解し活用すれば、大きな成果を上げられる。そのことを、同じように挑戦する事業者の方々に伝えられたら嬉しいですね。

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この記事の著者

堤 美佳子(ツツミ ミカコ)

ライター・編集者・記者。1993年愛媛県生まれ。横浜国立大学卒業後、新聞社、出版社を経てフリーランスとして独立。現在はビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:Facebook Singapore Pte. Ltd.

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/18 10:00 https://markezine.jp/article/detail/50064