AnthropicとCursorの“体験設計”に見る戦略
AnthropicとCursorはいずれもAIを核にしたテックブランドである。だが、両社が選んだ次の一手は、コードでもプロダクトでもなく「場」だった。
Anthropicはニューヨーク・ウエストビレッジに期間限定のポップアップ「Claude Café」を開き、Cursorはサンフランシスコで開発者向けのカフェラウンジを展開した。
Claude Caféはブランドの人格を体験として“翻訳”した空間だ。訪れた人々は、AI「Claude」に関連する詩や短いメッセージが書かれたカードを受け取り、AIとの対話を模したワークショップにも参加できる。来場者は5,000人を超え、SNS上では1,000万件を超えるインプレッションを記録した。イベントそのものが「AIとの新しい関係性」を可視化し、“人にやさしいAI”という理念を感覚的に伝えている。
一方、CursorはコーディングAIという無機質な領域を、あえて人が集うカフェ空間へと持ち込んだ。来場者はコーヒーを片手にデモ端末を操作し、エンジニア同士でコードやプロンプトを共有する。企業説明や販売を目的としない、いわば“学びと共創の場”として設計された。参加者が生成AIを実際に触れながら学ぶ環境を作ることで、Cursorは自社サービスの理解促進だけでなく、コミュニティ形成や採用ブランディングにも成功した。
両ブランドに共通するのは、非販売型の設計思想である。AIという見えない技術を、体験を通じて「理解できる・語れるもの」に変換する。来場者がSNSで写真を投稿し、友人に体験を語ることで、ポップアップ自体がメディアとして機能する。Anthropicが配布した「thinking」と刺繍されたキャップや、Cursorのインタラクティブ展示は、いずれもUGCを誘発する“話題の仕掛け”として設計されていた。
これらのポップアップはROIを直接追うものではない。むしろAIブランドが「理解される」「信頼される」ための投資であり、抽象的な技術を日常の文脈に翻訳する試みである。そこに共通するのは、“触れることで信頼が生まれる”という、原始的で人間的なコミュニケーションの回復だ。
