さらに詳細に意思決定するには:LTVの導入
前ページでは購入量層分析によって、自社ブランドがどういった顧客に支えられているのかが明らかとなりました。しかし、各層の「現時点の購買量」だけでは事業を運営する上での意思決定をすることが難しい場合もあります。そこで重要なのは、これからその層が将来どれくらいの価値を生み出すか=将来LTV(顧客生涯価値)です。将来LTVは業界や扱う商材、サービスによって算出の仕方が異なりますが、FMCGでは一般的に下記を掛け合わせて考えられます。
- 購入頻度(どのくらいのペースで買うか)
- 購入金額(1回あたりいくら買うか)
- 継続期間(どのくらい買い続けるか)
たとえば、ある飲料ブランドを例にすると
- ライト層:月1回×200円×1年=2,400円
- ミドル層:月2回×300円×2年=14,400円(ライト層の6倍)
- ヘビー層:週1回×400円×5年=104,000円(ライト層の43倍)
といったように算出できます。
このように、ヘビー層のLTVはライト層の40倍以上になるケースも珍しくありません。つまり、単に「今どれくらい買っているか」ではなく、「どれだけ長く・どれくらいの頻度で・いくら買ってくれるか」を考えることで、各層が与えうる事業インパクトを、将来を見越して評価することができます。
さらに注目すべきは「層の移行がもたらすインパクト」です。図表9は、ライト層の10%がミドル層に、ミドル層の10%がヘビー層に移行した場合のシナリオを示したものです。
このシナリオでは、単に新規顧客を増やさなくても、既存のライト顧客を一段上の層に育成するだけで、全体LTVが20%以上押し上げられることが確認できます。つまり、戦略的に最も重要なのは「いかに顧客を上位層へと移行させるか」です。
特にFMCGのように単価が低くスイッチングも起こりやすい市場では、購入頻度や継続期間をどう伸ばすかがブランド成長のカギを握ります。定期購入の仕組み、まとめ買い導線、ロイヤルティ施策など、顧客を上位層に押し上げる仕掛けこそがLTV最大化の本質といえます。
さらに精緻に見るには、BG/NBDモデルなどのLTV予測モデルを用いて「将来の購買回数や離反確率」を確率的に予測する方法もありますが、まずはシンプルに購入頻度×購入金額×継続期間で層別LTVを比較するだけでも、戦略検討に十分な示唆が得られます。
今回取り上げた購入量層分析は、単に顧客を層に分けて見るだけの手法ではありません。自社の商品やブランドが、どの層の顧客によって支えられているのかを可視化し、強みと課題を明確にするための出発点です。売上の集中・分散や層構成の変化を把握することで、どの層を伸ばすべきか、どこにリスクが潜んでいるかといった次の一手を考えるヒントが得られます。
ぜひ消費者購買履歴データ「QPR」やお手元のデータを活用し、自社の商品・サービスがどの層に定着し、どの層で伸びしろがあるのか改めて見つめ直してみてください。今後進むべき方向性が、今までよりも鮮明に浮かび上がってくるはずです。
