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データで市場を読み解く

その商品はヘビーユーザー依存型?ミドル層厚型?購入量層分析で売上構造を理解し、強みとリスクを把握する

実践編:実際に比較をしてみる

 ここからは、実際のデータを用いながら比較をしていきましょう。今回もマクロミルの消費者購買履歴データ「QPR」を用い、ブラックコーヒーに関する4ブランドがどのような顧客に支えられているのかを見ていきます。

 今回は、「どのように層に区切るのか」については、「上位○%で区切る方法」を採用し、売上金額から50%をヘビー層、25%をミドル層、残り25%をライト層として定義することにします。

ステップ1:セグメント間で比較をする

 まずは、ブランドAについて、人数構成比を確認してみましょう(図表6)。

【図表6】ブランドAの購入量層別人数構成比
【図表6】ブランドAの購入量層別人数構成比

 ヘビー層は全体のわずか5%に過ぎませんが、売上全体の50%を占めており、きわめてヘビー層依存の高い構造になっていることがわかります。一方、ミドル層も全体の12%で25%の売上を支えており、ヘビー層ほどではないものの重要な貢献層といえます。つまり、「ごく一部のヘビーユーザーが売上の大半を生み出し、それをミドル層が下支えしている」構造が見て取れます。

 このような構造は、ブラックコーヒーのように嗜好性が強くリピート購買が発生しやすいカテゴリに典型的であり、新規やライト層をどのように取り込むかが、将来的な市場拡大のカギとなります。

ステップ2:ブランド間で比較をする

 次に、ブランドAと他ブランドを比較し、ブラックコーヒーというカテゴリ内でどういった構造の特徴があるのかを見てみましょう。図表7は、ブランド間で、ライト層・ミドル層・ヘビー層の人数構成比を比較したものです。

※本分析では売上寄与で層を定義しているため、ブランド間の人数比は「売上集中度」の比較にのみ用います(後述)。

【図表7】ブランド別人数構成比(各ブランドとも、売上金額から50%をヘビー層、25%をミドル層、残り25%をライト層と定義)
【図表7】ブランド別人数構成比(各ブランドとも、売上金額から50%をヘビー層、25%をミドル層、残り25%をライト層と定義)

 読み取りの際の注意として、各ブランド内の売上構成に基づいて上位50%をヘビー層、次の25%をミドル層、残りをライト層として区切っているため、層比率をブランド間で単純比較することはできません。ここで注目すべきは、「各ブランドがどれだけ少数の顧客に売上を依存しているか(=売上集中度)」という点です。

 ブランドBでは、ヘビー層割合が3%とブランドAの5%よりもさらに小さく、より高い集中度を示しています。これに対してブランドCは9%と相対的に広く、より多くの顧客が継続的に購買している、売上の分散度が高い構造といえます。このように、ブラックコーヒーの4ブランドを相対比較すると、次の構造の違いが見て取れます。

  • ブランドB:ごく限られた顧客が売上を牽引する集中型
  • ブランドC:一定数のリピーターに支えられた分散型
  • ブランドA、D:ブランドBとCの中間に位置

 同じ上位50%という基準でも、実際にその売上を構成する人数(=割合)の違いを見ることで、ブランドごとのファン構造やロイヤルティの厚みを比較することができます。実務でもこの視点は有効で、「どの程度まで売上を特定顧客に依存しているか」を把握することが、リスク管理や施策設計の出発点になります。

ステップ3:時系列で比較をする

 ブランドごとに構造がどう変化しているのかも見てみましょう(図表8)。

【図表8】ブランド別人数構成比トレンド(各ブランド×期間とも、売上金額から50%をヘビー層、25%をミドル層、残り25%をライト層と定義)
【図表8】ブランド別人数構成比トレンド(各ブランド×期間とも、売上金額から50%をヘビー層、25%をミドル層、残り25%をライト層と定義)

 全体としては大きな構造変化は見られませんが、ブランドごとにわずかな方向性の違いが確認できます。

 ブランドAでは、ヘビー層5%・ミドル層14%→12%と、上位層を構成する割合がわずかに減少していて、売上がより少数の顧客に集中した構造(集中度の上昇)となっています。これは、コア顧客が売上を牽引する一方で、ミドル層の広がりがやや弱まった可能性を示します。

 ブランドBでも同様に、ヘビー層が4%→3%へ減少し、より一部の顧客に売上が集中しています。全体的に少数依存型の傾向が強まっており、ライト層中心の構造がより際立ってきたといえます。

 一方、ブランドCは期間を通じて変化がなく、売上の分散構造が安定しているブランドです。

 ブランドDはヘビー層が4%→5%、ミドル層が11%→13%へとやや拡大しており、他ブランドとは逆に、上位層が厚くなった=売上がより分散型にシフトしたことがわかります。一定のファン層が育ちつつある、ポジティブな変化といえるでしょう。

何を根拠にどう意思決定すべきか

 購入量層分析における意思決定の出発点は、まず現状構造を正確に把握することにあります。すなわち、現在の売上がどの層によって支えられているのか、そしてどの程度、特定の顧客に依存しているのかを明確にすることです。

 この現状把握を起点に、過去との比較を行い、構造が「集中」に向かっているのか、「分散」に向かっているのかを確認します。その変化がブランドにとって安定化なのか、リスク拡大なのかを見極めることが意思決定の要となります。

現状と変化を読む:ブランド構造を定点で捉える

 まず、自社が「集中型」か「分散型」のどちらかを把握します。

  • 少数のコア顧客に支えられる構造:安定して見える一方で、離脱した際のリスクが高い
  • 幅広い顧客に支えられる構造:安定性が高いが、単価向上やロイヤルティ強化の余地が残る

 次に、過去との比較を通じて構造変化の方向を確認します。

  • 集中度が高まった場合:裾野が縮小し、依存リスクが高まる
  • 分散度が高まった場合:上位層の厚みが増し安定化

変化を評価する:ポジティブか、課題か

 構造変化は常にポジティブとは限りません。たとえば、ライト層が増えている場合も、その背景が新規流入による拡大であればポジティブですが、単に既存顧客の離脱による比率上昇であればネガティブになります。このため、比率の変化だけでなく顧客数・購買頻度・リピート率などの裏付け指標を合わせて見極める必要があります。

意思決定する:どの方向に動くべきかを定める

 現状構造と変化の方向を踏まえ、最終的に定めるべきは「どの層を守り、どの層を伸ばすか」です。

  • 集中度が上昇(コア層依存が強まりリスク増)→裾野拡大のためのライト・ミドル層育成を実施
  • 分散度が上昇(上位層が拡大し安定化)→現状施策の継続とロイヤルティ強化
  • ライト層が増加(新規流入/離脱増)→背景を確認し、育成または離脱防止策を実施
  • ミドル・ヘビー層が減少(定着率の低下)→離脱防止・再エンゲージを強化

 このように、購入量層の変化を現状→過去比較→評価→意思決定という流れで整理することで、単なる「層構成の違い」ではなく、ブランドの構造変化を根拠とした戦略的判断が可能になります。すなわち、意思決定の本質は「今どうなっているか」だけでなく、「どう変化してきたか」「その変化は意図したものか」を正しく捉えることにあります。

次のページ
さらに詳細に意思決定するには:LTVの導入

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この記事の著者

上田 拓朗(ウエダ タクロウ)

株式会社エイトハンドレッド データサイエンスユニット アナリスト
西日本旅客鉄道株式会社を経て、2022年に株式会社エイトハンドレッドへ入社。以降、業界横断的に購買行動データ、Webアクセスログ、アンケートデータなど多様なデータの分析案件に携わる。直近では、大手カード会社のマーケティング施策のパーソナライズ化、レジャー予...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/25 07:00 https://markezine.jp/article/detail/50077

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