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X起点の共感型動画で売上も好調!サントリーの会話を生む「反応設計」とは

 サントリー食品インターナショナルの「割るだけクラフトボスカフェ」は、Xを起点とした動画コミュニケーション施策を展開しました。Xと電通による支援のもと、子育て中の生活者のインサイトを深く捉えた動画を制作。「ママの息抜きは、ミッションだ。」をコンセプトに、当事者の声やXのポストから拾い上げたリアリティあるエピソードをポジティブに映像化し、広告接触層の認知を他社平均の2倍以上、エンゲージメントした層の購入意向を平均の2倍以上に引き上げ、ローンチ週の売上にも好影響がありました。本稿では、サントリーの先進的なX活用術の全貌と、Xならではの会話を生み出すための「反応設計」の極意に迫ります。

「コーヒーくらいは好きにしたい」インサイトを発掘

――本日は、サントリー様と電通様、X様による先進的な動画コミュニケーションの事例についてお話を伺います。まずは、今回プロモーションの対象となった「割るだけクラフトボスカフェ」のブランド概要を教えていただけますか。

若杉:「割るだけクラフトボスカフェ」は、ミルクやお水で割るだけで美味しいラテやアイスコーヒーが簡単に作れる商品です。

サントリー食品インターナショナル株式会社 SBFジャパン ブランドマーケティング本部 コミュニケーションデザイングループ 若杉 はるな氏
サントリー食品インターナショナル株式会社 SBFジャパン ブランドマーケティング本部 コミュニケーションデザイングループ 若杉 はるな氏

若杉:ボスは、「働く人の相棒」というコンセプトで商品やコミュニケーションを展開しています。その中でも、コロナ禍以降のリモートワークの浸透や、家事・育児という大切な終わりなき仕事に向き合う方がいることに着眼し、ボスが家の中でも相棒になりたいという思いで力を入れているのが、「割るだけクラフトボスカフェ」です。

――今回、サントリー様はXを起点とした動画広告を活用されたと聞いています。その背景や狙いについて教えてください。

若杉:元々2025年9月上旬に「割るだけクラフトボスカフェ」の店頭プロモーションを予定しており、同じタイミングでターゲットである子育て層に届く施策をWeb上で展開したいと考え、電通様に相談させていただきました。その中で、Xを起点とした動画広告施策を提案いただき、実施に至りました。

 この商品の魅力の一つは「自分好みの味わいに調整できる」ことです。水で割ればブラック、ミルクで割ればラテ、割合を調節すれば濃いめにも薄めにも作れるのですが、愛飲してくださっているお客様の中に、「日々、家事や育児に追われて思い通りにいかないことが多いからこそ、コーヒーくらいは好きにしたい」とおっしゃった方がいらっしゃって。そうか、これは「自分の好きにできるコーヒー」なんだ、という気づきがあり、この声を活かしたコミュニケーションを作りたいという構想が生まれました。

 Xを起点とした施策が良いと思った背景には、このお客様のように、日々家事や育児に奮闘しているお父さん・お母さんたちの本音がX上では既に可視化されており、投稿に対して共感の輪が広がっているのを見ていた、ということがありました。Xはインサイトのヒントの宝庫なので、商品やコミュニケーションを考えるときには欠かせない存在ではないでしょうか。

「ママの息抜きはミッションだ」顧客インサイトに基づく動画のコンセプト設計

――今回、クリエイティブディレクターを務めた三浦さんに伺います。若杉さんがお話ししていたインサイトを踏まえ、どのようなコミュニケーションを設計したのでしょうか。

三浦:若杉さんが話していた「家事・仕事に追われて思い通りにできないけれども、コーヒーくらいは好きにしたい」というインサイトが、商品自体の見え方や、お客様との距離感が変わる素晴らしい気づきだと感じました。

 しかし、それを企業がそのまま伝えても共感は得られません。そこで、「わかる、わかる」と思ってもらえるエピソードを見つけていこう、というところからスタートしました。

株式会社電通 第1CRプランニング局 DentsuLabTokyo1部 三浦 慎也氏
株式会社電通 第1CRプランニング局 DentsuLabTokyo1部 三浦 慎也氏

――共感が生まれやすいエピソードを起点に企画していったのですね。素材となるエピソードはどのように探していったのですか。

三浦:私自身に子供と妻がいるので、妻を観察したりヒアリングしたりしました。その他にも、X上には様々なエピソードが潜んでいるので、印象的な投稿はとにかくスクリーンショットで保存しました。その中から、企画に合うものを厳選していきました。

――今回のコミュニケーションのコンセプトは「ママの息抜きは、ミッションだ。」とのことですが、このワードに行き着いたのはなぜでしょうか。

三浦:ママは日々家事や育児で自分の時間がなく、息抜きをすることすら大変な状況です。そんな状況もミッションを実行する主人公のように肯定的に捉えてもらいたいという狙いがありました。

――トーン&マナーについては、どのような点にこだわりましたか。

三浦:子育て界隈の愚痴や大変さというのは表裏一体で、伝え方によっては大変だということを結果的には肯定してしまったり、行き場のない辛い気持ちや体験を集めるだけになりかねません。感動を起こさせるストーリーや、過剰に寄り添うコミュニケーションは、逆効果だと考えました。

 そのため、大変さには焦点を当てつつ、Xのユーザーらしく笑い飛ばせて気持ちが軽くなるような後味にすること、気持ちが軽くなることを意識しました。

X上で話題化する、共感の得られる動画のポイントとは?

――X上の実際のポストからエピソードを集め動画を企画・制作したとのことですが、どのように構成を組み立てましたか。

三浦:ポストやそれに対する反応で一番多く目についたのは「子供に隠れてのつまみ食い」だったので、動画の中でも一番象徴的なエピソードとして最初に入れました。

――Xを起点にしたコミュニケーションということで、ユーザーの会話を生み出すことが重要だと思いますが、会話のきっかけとなるような仕掛けはありますか。

三浦:動画を通じて話題を提供する感覚をとても大事にしました。最初に「こういう話をするけど、興味ある?」という問いをしっかりと提示した上で見てもらった方が、見た人がそれに対して思うことを投稿に込めやすいと考えたからです。

 具体的には投稿文に「皆さん、こういうことありませんか?」と問いかけを入れ、ユーザーがどうリアクションしていいのかをわかりやすくしました。

投稿並びに動画を見たい方は画像をクリック・タップ

中川:リーチの話と会話の話は表裏一体で、対立すべきものではありません。Xをリーチの面として見ていただくのは有り難いですし、そこもXの強みではありますが、そのリーチ効果を最大化したり、逆にリーチをさらに獲得できるのがXの最大の強みである「会話」の力です。今回は、Xの広告のルール改定などもありご心配をおかけしましたが、実際にはコンテンツそのものを引用ポストする形で意見を表明してくれるという、理想的な会話の生まれ方を見直すきっかけになりました。

当事者以外の人も楽しめる要素が会話を広めるには必要

――若杉様は、今回のクリエイティブのどういった点が優れていると感じられましたか?

若杉:私自身は子育ての経験がないのですが、三浦さんの考えてくださった企画が素直におもしろくて。同時に、この企画がXに投稿されたときのお客さまの反応がとてもよく想像できましたし、「わかる、わかる、分かりみが深い」という共感の輪ができそうだと確信できてしまう力があったように思います。三浦さんご自身のターゲット解像度が高かったおかげだと思います。

三浦:当事者のインサイトを深くつくことは大事ですが、その人に向けてだけ作ってしまうと、当事者以外の人が見たときに置いていかれた印象を持たれて、ブランドとの距離が生まれてしまいます。若杉さんのように、当事者以外の方が「おもしろい」「可愛らしい」と好意的に受け取ることができることが、会話を広げる上で非常に大切だと感じています。

若杉:また、動画の構成においても、いわゆるあるあるネタの連打だけでも十分おもしろく成立していたのですが、三浦さんと監督が最後に「一番は君なのです」と、お子様に向けたセリフを加えてくれたことで、企画がすごく骨太になりました。

中川:ママたちが「疲れた」と言う一方で、心の奥底で「でも本当は嫌じゃない」という皆まで言わない気持ちを、ブランドが言語化してくれたことに価値がありました。単なる「あるある集」ではなく、その先の感情まで入っていたことで、骨太な動画になったのだと思います。

――動画のリーチ数ではなく、動画を見た後のユーザーのアクション(リプライ、引用ポストなど)を増やすために、他にどのような工夫をしましたか?

三浦:一つは、投稿文での投げかけをすることです。それに加えて、今回はインフルエンサーも起用し、話題化の火付け役になっていただきました。「夜、忍者のように抜け出す」というエピソードに共感してもらえる実際ママである漫画家さんに、「うちもこうしています」と関連した漫画を書いてもらい、動画とセットで投稿してもらいました。

――Xの中川さんから見て、今回の取り組みで読者の方に参考になるポイントはどこだと思いますか。

中川:この取り組みは、多くの広告主や制作者のみなさまでも参考にできるポイントが多いと思います。まずXに数多ある声の中からブランドのメッセージと地続きになるインサイトを捉えてストーリーに落とし込むのは定石ですが、この事例のすごさは、最初に「こっそりつまみ食い」など、最も強いアイキャッチになるエピソードを持ってきて、「何これ、私の話?」と思わせて最後まで見せきった点です。

 これは、インサイトをどう使っていくかという上級編のテクニックであり、アイキャッチを言葉ではなくストーリーで作り上げた部分が、Xで動画をフックにする際に非常に参考になるポイントだと思います。

ローンチ週の売上が2桁増に!X起点の動画が実現した成果

――今回の施策によってどのような成果が得られましたか。ブランドリフト調査の結果を踏まえ、教えてください。

中川:今回のキャンペーンは非常に高い数値を記録しました。広告に「接触したユーザー」と「接触していないユーザー」の広告・キャンペーン認知、購入意向を比較するブランドリフト調査を実施したところ、すべての数値が大きく向上しました。

 X Corp. Japan Senior Brand Strategist / Agency Collaboration Head, Next 中川百合氏
X Corp. Japan, Next, Senior Brand Strategist / Agency Collaboration Head 中川 百合氏

 また、特にエンゲージャー(広告に対しリポストやいいねなど反応した人)や動画視聴者のリフト値は高く、他社と比較しても驚異的な数値でした。

 今回の調査によって、「キャンペーン認知:Xのタイムライン上に数多あるポストの中で目を止めてもらう突破力」「購入意向:その広告で製品を買いたいと思わせる説得力」の2つが明らかになりました。キャンペーン認知がなければ、購入意向の増加にはつながりません。また、キャンペーンが認知されても、購入意向が上がるとも限りません。

 今回の施策でキャンペーン認知と購入意向が両方向上したのは、「コーヒーくらいゆっくり飲みたい」というインサイトを動画のストーリーに反映したからです。その結果、ターゲットが「私のことかも?」と自分向けであると感じて動画を視聴し、購入意向を持つにまで至ったと言えます。

中川:定性的な視点での評価としても、ポジティブな声が非常に多く、「広告と気づかずに見ていた」「素敵な広告で最後まで見てしまった」という声がありました。また、商品について言及を促していないにも関わらず、商品に対するポジティブな言及がリアルに多かったことも素晴らしい成果だったと言えます。

――これらの成果を、サントリー様ではどのように評価されていますか。

若杉:X上の投稿を見てポジティブなコメントが多く、幸せな気持ちになっていました。また、商品に関する言及が想定以上に多かったこと、そしてローンチ週の売上が2桁増で伸びていたことなど、成果が出て本当によかったと思っています。

コミュニケーションの先にある「反応設計」が重要

――動画広告を通じてX上で会話を生み出すために、企業が絶対に意識すべき「ルール」や避けるべきことがあれば、アドバイスをお願いします。

三浦:今回のような実体験に近いエピソードを起点にする場合、エンタメに振り切るか、リアルに忠実にすることで共感を得るかの二極化を徹底すべきです。その中で最もダメなのが中途半端になることです。

 リアリティを追求するとはいえ、おもしろくするためにオーバーにやりすぎると、途端に「そんなことないわ」とユーザーから突き放されます。「あってもおかしくないけどおもしろい」という絶妙な範疇を見極めることが非常に重要です。

若杉:私からは、ターゲットのことを考え抜いた上で、最後まで「わかった気にならない」ということを徹底するのが大事だとお伝えしたいです。仮に自分が当事者だったとしても、様々な価値観の方がいます。第三者にもクリエイティブを見てもらい、世間の空気とずれていないかをチェックする作業は不可欠です。

 また、X は他のプラットフォームに比べても会話が生まれやすい媒体なので、「お客さまにどのように反応・発話してもらうか?から逆算した投稿・情報設計」がとても重要だと感じます。サントリー社内ではそれを「反応設計」と呼んでいます。

――今回の施策をきっかけに、今後さらにXの動画広告でチャレンジしてみたいアプローチなどはありますか?

若杉:今回の企画のように、お客様の実体験や記憶を起点にした企画を色々試してみたいなと考えています。

 ロングセラーの商品には、お客様との間に“思い出”のようなものが存在しますが、割るだけクラフトボスカフェのようなまだ若い商品にはまだそれが十分にはありません。そのため、どのように絆を構築していくべきかがとても難しいのですが、今回の施策からは新しい絆を構築する切り口を見出せた気がします。たとえば、今既に割るだけクラフトボスカフェを愛飲してくださっている方の熱量や使いこなし方を起点に、もっと認知や興味喚起を広げられるような方法を模索していきたいです。

三浦:広告は「とにかく目立つ」ことが求められていますが、今回は実際のエピソードを起点に広告を作ることで、「共感の輪を広げる」という役割を果たすことができました。今後も「目立つ」以外の役割での企画をクライアントに提案したいです。

中川:先ほどお話ししたブランドリフト調査でもまさに、「目立つ」ことではなく、「私のことかも?」と感じてもらうことがX上でユーザーの目に止まることにつながったという結果も出ていますよね。インサイトに裏付けされた「共感」がタイムライン上で「目立つこと」と同じ効果、もしくはそれ以上の効果をもたらしているのだと思います。

 マス広告を制作してからその素材をデジタルに展開するという従来型のステップではなく、オリエン時からメインのクリエイティブの制作段階までもXの声に丁寧に寄り添い、発話が生まれるアウトプットを作っています。結果、Xのスーパーパワーであるユーザーの声とブランドが共鳴する先進的な事例になりました。

 Xにおける動画広告は、プランニング上メディアプランの最後のほうに着手される広告主様もまだ多いかと思いますが、ぜひ、今回のサントリーさんの事例のようなXをプランニングの拠り所とされる動画広告がもっともっと増えることを楽しみにしています。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:X Corp. Japan 株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/17 11:00 https://markezine.jp/article/detail/50084