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事業と人を成長させる「強み」起点のマーケティング思考

マーケティング戦略は「現状分析」が8割。リクルート時代の“しくじり”で学んだ、戦略を考える5ステップ

現状を定義する──「構造」と「ルール」を数値で捉える

 まずは、いつものように言葉の定義から始めます。丁寧に考えていくために、「現状」と「分析」を分けて説明します。

  私が定義する現状とは、「前提となる構造とルールの中で起きている現象」です。

 いきなり「構造」と「ルール」と言われてもピンと来ないかもしれません。ここでは、家を例に考えてみましょう。

 あなたが「この家の構造を説明してくれ」と言われたら、どのように答えますか。たとえば「2階建てで煙突がある木造の家で……」と説明するのではないでしょうか。しかし、それでは外観のイメージは伝わりますが、構造は伝わりません。構造とは家でいう“設計図”に相当します。設計図を説明するなら、たとえば次のようになります。

  • 縦4m × 横10m、延べ床30坪
  • 2階建て、玄関ドアは1つ
  • 窓は1階に4つ、2階に1つ
  • 間取りは4LDK

 いかがでしょうか。できる限り数値で示すことで、初めて構造が相手に伝わります。構造とは骨格、すなわち仕組みとしてどう成り立っているかということです。その成り立ちを高解像度で捉えるためには、可能な限り数値で捉えることが重要です。数値化が難しいものは、正確な国語で補うとよいでしょう。

 次にルールです。ルールとは、その構造内における前提や制約条件のこと。言い換えれば、その構造が引き起こしている「暗黙のルール」ともいえます。たとえば――

  • 家に入るには玄関を通る必要がある
  • 2階へは1階にある1つの階段でしか行けない
  • 家の中では靴を脱がなければならない

 家ならすぐ思いつく当たり前のルールですが、ビジネスの現場では、対象における構造(設計図)に潜むルールを見抜くことが重要です。ルール=前提は、往々にして隠れており、気づかれないまま意思決定が行われがちです。これをしっかりと捉え、言語化できるようになるには、相応の経験が必要です。

「構造とルール」を捉えられないとどうなるか?リクルート時代の“しくじり”

 ここで、私自身が「構造とルール」を正しく捉えられずにしくじった例をご紹介します。

 当時、私はリクルートのHR領域プロダクトを管掌するマーケティング部の部長を務めていました。主なミッションは、仕事を探すカスタマーをプロダクトに集客することであり、いわゆるToC(消費者向け)のマーケティングを担当していました。

 しかし、会社として企業サイド(ToB)へのマーケティングにも注力していく方針となり、求人原稿を自分で入稿し、応募者や採用者を管理できるATS(採用管理システム)プロダクトのマーケティングも私の管掌範囲に加わりました。このプロダクトは新規事業組織の中で、開発からマーケティングまでを一気通貫で行っていましたが、十分に伸びきれなかったため、私の部で戦略を立て直すことになったのです。

 当然、最初に着手したのは現状分析です。経路別に獲得チャネルを分析すると、SEOが約10%、検索広告が70〜80%、残りの約10%がメールなどによる獲得という構造でした。カスタマー側(ToC)の集客構造と比較すると、SEOと検索広告の比率が真逆でした。そのため「SEOで獲得できていないことが課題なのではないか」と仮説を立て、分析を進めました。

 さらに調べてみると、検索流入の約80%がブランド名による検索であり、その他のキーワードではほとんど流入がありませんでした。これもカスタマーサイドとは真逆の状況です。そこで「ブランドクエリ以外のキーワードで獲得できていないことが課題である」と仮説を立て、SEOを中心に改善の余地を探りました。

 分析を深めると、ほとんどのキーワードが検索結果の2ページ目以降(表示順位11位以下)にしか表示されていないことが判明。つまり、伸ばす余地は十分にあると見立てました。また、検索広告の構成を見ると、6〜7割がブランド名による獲得で、その他のキーワードでは成果が出ていない状況でした。

 そこで、「ブランド名以外のキーワードでSEOと検索広告の流入を伸ばせば良い」と考え、SEOと検索広告の専門家を選抜し、チームを再編成しました。

 この時点で私は、「データをもとに適切な改善を行えば、数字は自然に伸びるだろう」と考えていました。ところが、2〜3ヵ月経っても成果がまったく上がりません。特に、短期的な改善効果を見込んでいた検索広告が伸びないことに違和感を覚え、「もしかするとToCとToBではマーケットの構造とルールそのものが異なるのではないか」という仮説が浮かびました。

 改めて、検索マーケットの構造とルールをToCとToBで比較してみました。

構造:ToCとToBのマーケット比較

   
観点 ToC(カスタマーサイド) ToB(企業サイド)
ターゲット母集団 約6,800万人(就労者人口) 約250万社(事業所数)
検索クエリの特徴 2~3語の条件の掛け合わせ
(例:「バイト 東京」)
ブランド名や機能の1語
(例:「採用管理」)
検索クエリの種類 数千~数万(多様な条件検索) 数十~数百(限定的な検索)
検索行動の目的 条件に合う仕事を探す 業務課題を解決する製品を探す

  上記のように整理すると、ToCとToBでは明らかに構造が異なっていました。ToBサイドでは、そもそも検索クエリの種類も数も圧倒的に少なかったのです。

 この構造をふまえ、ヒアリングを重ねて分析を進めるうちに、潜んでいるいくつかの「ルール」も見えてきました。

ルール

 まず、ターゲット母集団の規模が一桁違うため、検索されるキーワードの種類が根本的に制限されているというルールです。検索母数が少ないToB市場では、クエリのバリエーションが自然と限られ、結果として一部の単語に集中する構造になっていました。

 次に、企業側はプロダクトの機能や違いを十分に理解していないため、固有名詞(ブランド名)でしか検索を行わないというルールも存在していました。

  つまり、様々な条件では検索されず、知っているブランド名でほぼ検索されていたのです。

 これらのルールを踏まえると、ToBサイドのクライアント獲得の勝ち筋は、SEOや検索広告の最適化ではなく、ブランド検索クエリ(指名検索)を伸ばすことにあると気づきました。そこで戦略を大きくピボットし、ブランド名検索を伸ばすためのブランドプロモーションに注力した結果、ようやく数字が伸び始めたのです。

 この経験を通じて、構造とルールを正しく理解しないまま戦略を考えても、どれだけ施策を打っても成果は出ないということを痛感しました。マーケティング戦略の本質は、表面上の数値ではなく、構造とルール。すなわち「仕組み」と「前提」を読み解く力にあるのだと学びました。

 現状の構造とルールを捉えて言語化する訓練を、ぜひ普段の仕事の中でも意識的に行ってみてください。繰り返すことで、必ず身についていくはずです。

次のページ
分析の正体──「縦と横」で比べ、差から考える

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この記事の著者

金井 統(カナイ オサム)

NexGen Inc. CEO
新卒でNTTドコモに入社。端末のマーケティングを経験した後、iモードでビジネス展開をする会社へのコンサルティングに従事。その後、リクルートへ転職。マーケティング室のVP(ヴァイスプレジデント)として、横断の人材育成・知見流通とHR領域のマーケティング責任者を担当。HR領域におけるToC及びToB双方のプロダクト横断での事業・マーケティング戦略、ブランディングからdirectADやSEO等のネットマーケティング、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/07 08:30 https://markezine.jp/article/detail/50085

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