楽天・Amazonの牙城を崩せるか? 日本市場におけるTikTok Shopの活路
私は、日本のECにおける商習慣が米国に近いことから、TikTok Shopも導入直後の1年間は「カオス」に近い状態を通過する可能性があると見ています。怪しい商品や低品質品の混入懸念、あるいは中国直送による配送の遅延や品質問題など、“信頼”のハードルが確実に立ちはだかるはずです。
2025年7月時点の日本国内調査では、認知は短期間で広がる一方、利用意向はなお低いというデータが出ています。理由としては「信頼できない」が上位に来ており、日本市場では信頼構築がカギになる、と私は考えます。
実際、国内の認知ユーザーを対象にした調査(Hotice、2025年7月、n=106)でも、購入経験者はわずか8.8%でした。購入しない最大の理由として「商品の品質への不安」が挙げられています。つまり、日本市場では認知の拡大と同時に“信頼設計”をいかに早く築けるかが普及の成否を左右すると言えます(日本語版リリース)。
とはいえ、楽天やAmazonが長年築いた“当たり前品質”の信頼資産がある日本では、TikTok Shopがいきなりそれらを“駆逐”するというより、共存のシナリオのほうが現実的です。価格・利便の土俵で戦う既存モールに対し、TikTok Shopは「今っぽいクリエイティブで、ブランドやストーリーで勝負する場」と位置づけられるはずです。
TikTok Shopは「商品が消費者を探す」発見型ECです。ユーザーはコンテンツを通じて商品に出会い、アプリ内で購入まで完結できます。そのため、フォロワーを多く抱えるブランドにとって有利なプラットフォームとなります。とりわけライブ配信は重要で、米国でも大型セール期にライブが大きな売上を牽引した事例が確認できます(例:2024年ブラックフライデーの米国売上は1日で1億ドル超との報道)(Business Insider)。
日本で購入意向が高いカテゴリーとしては、ファッション・アパレル、食品・飲料、日用品・生活雑貨が軸になると私は見ています。週1以上の高頻度利用者が多数を占めるTikTokの利用実態や、20~30代の高い接触を踏まえると、若年〜ヤングアダルト向けの“見て伝わる”商材にチャンスが広がります。無名ブランドが一躍注目を集める可能性も十分にあるでしょう。
日本企業のためのマーケティング活用のヒント
米国市場の課題や日本市場の「信頼」重視の特性を踏まえると、単に商品を並べるだけでは成功は難しいでしょう。ここでは、日本企業がTikTok Shopで成果を出すために押さえるべき、4つの具体的なヒントを解説します。
1. 「売れやすい商品」を見極める商品戦略
低価格帯(目安1万円以下)でビジュアル訴求が効く商品が向いています。コスメ、雑貨、ファッション、安価な美容家電、スマホアクセサリー、日用品などは親和性が高いです。食品・飲料は単品ECでは不利ですが、ライブ企画や季節ギフトとは好相性です。家具や高単価ガジェットのような比較検討が長い商材は、お試し・周辺アクセ・ケア用品など“入口商品”から検証するのが現実的です。
2. 「本物らしさ」を追求するコンテンツとライブコマース
ライブ/ショートは“オーセンティシティ(本物らしさ)”が命です。インフルエンサー任せにせず、創業者や“中の人”が顔を出すことで、リアルな使用実感と説得力が増します。
配信頻度は週3~4回が理想ですが、短尺でも継続のほうが効果的なことが多いです。リアルタイムQ&Aで疑問を解消し、「今そこで買う理由」(限定・割引・同梱・イベント連動)を必ず用意します。ブラックフライデーのような大型イベント連動や、余剰在庫の“ライブ限定バンドル”も実務上有効です。
3. インフルエンサーの活用
売上の相当部分がインフルエンサー経由になるのは事実です。フォロワー数よりも、「正直さ」「専門性」「親近感」「ライブでの双方向性」を優先して選定します。サンプル動画・台本の素案など、作りやすい環境を提供すると成果が安定します。
アフィリエイト料率(例:10〜40%など)は役割(新規・検討深耕・使いこなし)で最適化し、フォロワー属性・販売データ・エンゲージメントを見ながら継続的にチューニングします。制作した動画は自社EC/Amazon/検索/店頭へ二次活用(スピルオーバー)し、短期売上+波及価値の二階建てで評価します。
4. 運営上の注意点と効率化
アメリカではTikTok Shopは初期費用・月額費用なしで始められますが、販売手数料は2024年に最大8%へ段階的に引き上げられ、30セントの固定チャージも導入されました(WIRED)。また、注文から7営業日以内に「Ready to Ship」にならないと自動キャンセルの可能性があります。在庫・WMS・SKU設計は通常ECと切り分けるのが堅実です。ライブ専用バンドルや同梱特典SKUを用意し、事故コスト(返品・CS・遅延)の想定をP/Lにあらかじめ織り込むべきでしょう。
既存のEC(Shopify/BASE等)との連携機能は標準的に提供されているため、商品情報・在庫の一元管理を前提に運用するとミスが減ります。
