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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2026 Spring

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大回遊時代の購買潮流を捉え、新しい顧客接点の攻略に導く「偶発購買×トライブ」マーケティングとは?

 消費者の情報接触や趣味嗜好は多様化し続け、従来のファネル型マーケティングだけでは購買行動を捉えきれなくなっている。こうした状況に対応するカギとなるのが、計画的ではない情報接触から至る「偶発購買」だ。この新たな購買行動に着目し、共通の興味関心を持つ「トライブ」を基点とした戦略について、電通デジタルの門脇氏と矢部氏にインタビュー。消費者の行動変化に対して、企業が取るべき次世代戦略の全貌に迫った。

“検索より回遊”が進む。変容する消費者の行動

MZ:はじめに、昨今の消費者行動の変化や潮流をどう見られているかお聞かせください。

門脇:情報収集の方法自体が、明確に変わっていると感じます。生活者は目的を持って検索するのではなく、「なんとなくSNSをスクロールしている」中で気になる投稿に出会うといった“目的のない回遊”を日常的に行うようになりました。また、知りたいことがあれば検索よりもAIに聞くなど情報接触や購買までの流れが多様化し、「課題を認識し、調べて買う」という従来型のファネルでは生活者を捉えきれなくなっています。

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門脇:こうした変化にともない、企業側にも「これまでと同じ施策を続けるだけで良いのか」という漠然とした不安が生まれています。売り上げ目標は達成しているものの、消費者の行動が変わりつつある昨今、次の一手や新しいアプローチが必要ではないかと相談いただくケースが増えていますね。

株式会社電通デジタル ストラテジー部門 統合プランニング2部 門脇聖氏
株式会社電通デジタル ストラテジー部門 統合プランニング2部 門脇聖氏
クリエイティブストラテジストとして、コーポレートブランディングやパーパス・CIVI策定および広報業務に取り組む。SNSを基点に商品・サービスの衝動買いを設計する、「偶発購買マーケティング」のアプローチを開発。

MZ:電通グループが提唱する「AISAS」のような購買行動モデルも変化しているのでしょうか。

門脇:その通りです。従来は認知から興味、検索、購買まで進むファネルを前提にしていましたが、今はSNSで偶然目に入った情報からそのまま購買に至るケースも増加しています。そこで電通グループでは2024年12月、偶発購買デザインモデル「SEAMS(シームズ)」を新たに提唱しました。Surf(回遊)、Encounter(遭遇)、Accept(受容)、Motivation(高揚)、Share(共有)という5つのプロセスで、偶発的な購買行動をより実態に近い形で捉えようとするものです。

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偶発購買はどの商材にも起こる?SNS時代の衝動買いメカニズム

MZ:偶発購買について詳しく教えてください。

門脇:従来のAISASの“計画購買”と対比する形で、SEAMSを“偶発購買”と名付けました。偶発購買のポイントは3つあります。

 1つ目は、「検索より回遊」です。ネットを回遊する中で偶然ブランドや商品に出会い、ストレートに購買に至るケースが増えています。2つ目は、計画購買と偶発購買は混在している点。生活者は、計画的に情報を集めるプロセスと、偶発的に出会って購買行動が動くプロセスを行き来しています。3つ目は、ブランドが自然と話題にのぼるPGC(Professionally-generated Content:企業が制作したコンテンツ)をいかに作れるかです。

MZ:偶発購買は、生活者が偶然出会うのを待つのではなく、企業側で生み出せるということでしょうか。

門脇:はい。カギとなるのは、企業やブランドが発信した情報を生活者がどう受け取り、いかに解釈して個人の投稿やUGC(User-generated Content:ユーザーが生成したコンテンツ)につなげるかまで見据えたPGC制作メソッドを設計することです。これをマーケティング発想で型化したのが「偶発購買マーケティング」です。

 また、偶発購買を“衝動買い体験”と捉えると、特定の世代や商品に限らずどのような層・商材でも幅広く起こり得るという前提に立つ必要があります。例として、コンビニでのビール購入では、継続購買が65.1%、計画購買が9.3%に対し、偶発購買が25.6%を占めています。「気に入ったキャラクターとのコラボデザイン缶を見つけて思わず購入する」といった偶発購買が3割弱起こり得る、典型的なケースですね。

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門脇:一方で単価の高い商材でも、レビューなどのUGCをきっかけにブランドスイッチが起きることがあります。たとえば基礎化粧品カテゴリーでは、13.1%が偶発購買という結果が出ています。こうしたデータからも、価格帯の高低に関わらず偶発購買は広く発生していると捉えられます。

偶発購買をする層をどう捉える?「トライブドリブンマーケティング」による分析と発見

MZ:具体的には、どのように偶発購買を設計していくのでしょうか。

門脇:偶発購買をする層を捉えることが重要ですが、ロイヤル層と違って彼らは「未知のターゲット」であるため、探すことは困難です。そこで、特定の軸や切り口で実際の生活者を深く理解するアプローチが有効となります。

 ビールを例にすると、「久々にビールを飲んだ人」や「コラボデザインをきっかけにビールを手に取った人」の背景情報やインサイトを深掘りしていきます。こうした行動の背景を分析・可視化するため、SNS投稿を対象としたソーシャルリスニングを行います。

矢部:電通デジタルは、こうした分析手法をトライブドリブンマーケティング(TDM)というフレームワークへ体系化しました。トライブとは、共通の興味関心やライフスタイルを持つ集団のことを指します。

 トライブを切り口としてSNSデータを読み解くことで、偶発購買をする「未知のターゲット」の解像度を高めることができます。従来のソーシャルリスニングが投稿内容の「何」に注目していたのに対し、それを投稿した「誰」まで深掘りできる点がTDMの特徴です。

矢部:TDMは、トライブを基点に分析する電通デジタル独自のマーケティングフレームワークで、目的に応じて大きく次の2つのアプローチを取ることができます。

  1. 虫の目:ピンポイントなトライブに属する生活者像をペルソナ化して深掘り
  2. 鳥の目:多様にあるトライブの特徴を横並びで比較し、ターゲットとなるトライブを分析

 この「虫の目」「鳥の目」の両方からSNSデータを読み解くことで、ブランドやカテゴリーの周辺に存在する多様なトライブを発見し、深掘りできます。

株式会社電通デジタル データ&AI部門 ソーシャルテック事業部 矢部みのり氏
株式会社電通デジタル データ&AI部門 ソーシャルテック事業部 矢部みのり氏
主にSNSデータを対象とした分析や分析ソリューション構築をミッションとし、AIを活用した分析の精度向上や効率化にも取り組む。

TDMの虫の目分析:ペルソナを可視化

MZ:虫の目で見ると、どれくらい細かくターゲットを深掘りできるのでしょうか?

矢部:ビールを例に見ていきましょう。偶発的にビールを買う「未知のターゲット」トライブを知るため、「久しぶりにビールを飲んだ」と投稿をしたユーザーのプロフィール文や過去投稿をたどり、掘り下げていきます。

 たとえば、あるユーザーは「週末ドライブが楽しみなゲーマー主婦」さんでした。投稿を分析すると、ドライブが好きで普段は車移動が多く、アルコールを飲める機会が少ないことが分かります。今回は家族が集まる特別な週末だったことで、久しぶりにビールを飲んでいた、というストーリーが見えてきました。

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矢部:別のユーザーは「北海道ライフを楽しむウイスキー通」さん。日常的にはウイスキー関連の投稿が多く、ビールはお祝いごとや食事とのペアリングの時にだけ選ぶ傾向が明らかになりました。

 こうした虫の目分析を通じて、ビールを偶発的に購入する人として、「特別な日にはビールを買う人」「食事に合わせてビールを買う人」といった、これまで見えていなかったペルソナ像を具体的に描き出すことができました。ここまで見えてくると、普段はビールを飲まない層をターゲットに、久しぶりに飲みたくなる家族が集まる週末やお祝いシーンを中心に添えた企画設計を行うアプローチが考えられます。

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TDMの鳥の目分析:トライブを比較

MZ:より広い分析や、特徴・傾向を発見したい場合はいかがでしょうか。

矢部:先ほどは個々のユーザーを深掘りする「虫の目」の例をご紹介しましたが、マーケティングのプランニングには、トライブ全体を俯瞰して捉える「鳥の目」も重要です。ここでは新しいAIサービスを、「推し活」トライブに向けてアプローチする事例を紹介します。

 一口に推し活といっても、その中には様々な趣味嗜好や活動スタイルがあり、どのようなタイプの推し活トライブとAIの親和性が高いのかを見ていく必要があります。そこで、AIサービスを使った感想をポジティブに書いているSNS投稿をTDMで分析。その結果、ITガジェットを愛好するトライブ、VTuberや二次元アイドル育成ゲームのファントライブ、ネットで活動するアーティストのファントライブなどが上位に現れました。

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矢部:続いて、同じ投稿データを用途や文脈で分類しました。本格活用(情報発信のために使う)・雑談活用(遊びとしてチャットする)・画像生成(画像生成に使う)の3パターンに分けたところ、IT・ガジェットトライブでは本格活用に関する発話が多く、アイドルトライブは雑談系、ネットアーティストトライブは画像生成が多い、といった特徴が見えてきました。ここまで分かると、訴求施策や活用媒体も、トライブごとに設計しやすくなるのではないでしょうか。

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矢部:このように、TDMではSNSのリアルなデータから、個々の生活者を深掘りする「虫の目」と、複数トライブを比較・俯瞰する「鳥の目」の両方の視点で分析が可能です。

偶発購買×TDMが拓く“”波紋形”プランニング

MZ:個人のペルソナからトライブごとの比較まで一気通貫で見られるのがTDMの強みであり、偶発購買のための戦略設計において効果的なアプローチなのですね。

門脇:はい。TDMの特徴は、推論ではなく事実ベースで分析できる点です。個人投稿という生活者のリアルな声を解析し、その行動文脈を踏まえて「偶発購買を引き起こすには何が必要か」を鮮明に描けることが強みになります。事実をもとにUGC、その先の偶発購買までを設計できるのは、TDMならではですね。

 また、現在は計画購買と偶発購買が混在している状況ですから、計画購買のコミュニケーションをしっかりと用意した上で、そのアプローチに入りきらない部分を偶発購買のメソッドで補完していくことが有効です。商材や予算によって両者の比重は変わりますが、併用することで接点を取りこぼさない設計が可能となります。

MZ:偶発購買マーケティングのプランニングはどう進めるのでしょうか。

門脇:まず、ブランドとして発信したい内容(コアとなる価値やメッセージ)を定めます。その上で、メディア選定やコアターゲット設計、トライブごとの訴求内容を決め顧客接点を複数設計していきます。

 従来のマーケティングは上流から下流へ流れる垂直型のイメージが強かったと思いますが、偶発購買マーケティングのプランニングは波紋形になっているのが特徴です。生活者がどこか一ヵ所でも顧客接点に触れると、購買につながる可能性があり、さらに他の生活者に広がっていく発想ですね。

 その時コアメッセージは変えずに、トライブごとに最適化した複数接点を置いておくことで、「キャンプトライブ」向けに設計した企画が起点になりUGCが生まれた結果「音楽トライブ」にも許容されるなど、トライブ間で広がりが生まれるのを見越して設計します。

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偶発購買・トライブ攻略でマーケティングを変革!

MZ:どうすれば偶発購買×トライブを取り入れられますか?

門脇:当社では前述したような、偶発購買マーケティングアプローチやプランニングメソッドを提供しております。また電通グループで組成した横断組織に属するスペシャリストたちが課題解決に向けて推進しています。

 すべてをアプローチや型にはめるということはなく、クライアント企業様の課題感やご要望に合わせたカスタマイズを前提としております。従ってご提案内容も三者三様なので、まずはお気軽にお問い合わせいただくことを推奨しております。

矢部:ここまでお話ししてきたトライブや偶発購買の知見を、日常的に活用できる「AIペルソナ」として蓄積していく取り組みも進めています。具体的には、当社が展開する対話型AIソリューション「∞AI Customer Twin」とTDMを組み合わせるアプローチです。

 生成AIに疑問を投げかけることが当たり前になりましたが、何も条件設定をしていない汎用的なAIにそのまま聞いても、特定のターゲット像に寄り添った回答を得るのは難しいのが現状です。そこで、TDMで抽出したSNSペルソナやトライブのインサイト、さらに企業が保有する顧客データなどを∞AI Customer Twinに搭載し、特定トライブの人格・価値観を備えたAIペルソナを構築します。

 これにより、TDMで描き出した「週末ドライブが楽しみなゲーマー主婦」「北海道ライフを楽しむウイスキー通」といったペルソナと、24時間いつでも対話できる環境が作れます。リアルなAIペルソナに対して、企画の壁打ちやコピー案・クリエイティブの評価、キャンペーン設計などを行えます。

ペルソナとの対話イメージ(クリックして拡大)

矢部:偶発購買とトライブ攻略の視点を取り入れることで、これまでの分析では捉えきれなかった新しいターゲットとインサイトが浮かび上がってきます。次の一手を考える際の選択肢として、ぜひご検討いただければと思います。

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この記事の著者

太田 祐一(オオタ ユウイチ)

 日本大学芸術学部放送学科を中退後、脚本家を目指すも挫折。その後、住宅関係、金属関係の業界紙での新聞記者を経て、コロナ禍の2020年にフリーライターとして独立。現在は、IT関係を中心に様々な媒体で取材・記事執筆活動を行っています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通デジタル

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/17 10:00 https://markezine.jp/article/detail/50135