“300円の壁”をどう越える? 「安すぎる」と言わせる逆転の価格戦略
高山:コンビニでのビール販売において、これまで「300円の壁」という言葉が課題としてあったと伺いました。これはどういうことでしょうか?
畠中:長年の経験則として、コンビニでは「200円台のビールは売れるが、300円を超えると極端に回転が悪くなる」という現実がありました。実際、過去に発売した300円以上の商品は、回転率が悪く苦戦する状況も珍しくありませんでした。そのため、開発当初は私からも「なんとか200円台にできないか」と相談していました。
本田:しかし、今回のコンセプトである「エクストリームな価値」や「本物のHazy IPA」を実現しようとすると、どうしても300円台後半の価格設定が必要になります。そこで私たちは逆転の発想をしました。
実は、クラフトビールの専門店やビアバーで「Hazy IPA」を飲もうとすると、1杯1,000円以上、缶製品でも600円以上するのが一般的です。つまり、この品質のものがコンビニで300円台で買えること自体が、ビール好きから見れば「価格破壊」であり「コスパ最強」と映るのです。
高山:なるほど。「コンビニのビールとしては高い」ではなく、「本格的なHazy IPAとしては破格」という文脈を作ったわけですね。パッケージデザインもかなり攻めていますが、社内の反応はいかがでしたか?
畠中:正直に申し上げますと、最初はかなり躊躇しました(笑)。真っ黒なエイリアンのイラストが出てきたとき、「この不気味さが万人に受け入れられるのか?」と不安になりました。
しかし、これまでの「セブン-イレブンらしい万人受けするデザイン」の基準で判断しては、新しい顧客層には届きません。ヤッホーさんのマーケティング戦略を信じ、あえて違和感のあるデザインを採用する決断をしました。結果として、店頭で強烈なインパクトを放つ商品となりました。

発売前から「界隈」を熱狂させる 情報の“染み出し”を狙ったコミュニケーション設計
高山:プロモーション手法も非常にユニークです。発売と同時にマス広告を打つのではなく、かなり早い段階から情報を出していたそうですね。
本田:はい。情報が「染み出していく」ような設計を意識しました。まず発売の1年前から「Hazy IPAを全国で発売するプロジェクト」としてファンコミュニティを立ち上げ、プロトタイプ(試作品)の販売や意見交換会を行いました。
さらに、国内最大のクラフトビールイベント「ビアEXPO」などでもアピールし、まずは「クラフトビール界隈」の人々に「ヤッホーが本気で作ったHazyをセブンと組んで販売するらしい」という期待感を醸成しました。
高山:コアな層の熱量を高めた上で、一般層へはどう広げていったのでしょうか?
本田:発売直前のプロモーションでは、「機能的な説明」を一切排除し、「世界観」を伝えることに徹しました。具体的には、「有頂天エイリアンズ」の目撃情報を募集し、購入した店舗をGoogleマップに登録してもらうというSNS企画を実施しました。
本田:また、紙媒体の広告出稿はファッション誌やビジネス誌ではなく、オカルト雑誌の『月刊ムー』一誌のみに絞りました。これがSNS上で「なぜムーだけ?」「公式が狂ってる(笑)」と話題になり、エンタメ・PR感度の高い層からの評価とクラフト界隈からの評価が重なりライト層のタイムラインをジャックする現象が起きました。
畠中:Googleマップの企画は我々にとっても発見でした。「香川県で買いました」「青森でも見つけた」といった投稿が地図上で可視化されることで、都市部だけでなく地方でもしっかりと熱狂が生まれていることが確認できたのです。
