「気候変動」と「SNS」が後押し——夜が消費の主戦場へ
夜が「選ばれる時間」になりつつある背景には、いくつかの構造的な変化がある。
まず、気候変動による生活リズムの変化である。欧州では観測史上最高クラスの高温を記録し、日中の屋外活動が制限されるケースが増えた。これにより、外出・外食・イベント参加のピークが夕方から夜に移動しつつある。
次に、観光行動の夜型化だ。観光客の行動ピークは夕方以降に移っている傾向があり、夜は可処分時間が長く、昼間よりも“目的消費”になりやすい。夜景・イルミネーション・屋外ライトアートなど、夜のビジュアルはSNSと極めて相性がよく、ブランド露出の価値を押し上げている。
さらに近年は、夜間経済そのものをどう位置づけるかが政策テーマになりつつある。EUはInterreg Europeの枠組みで「NITIES(Night-Time Economy Strategies:夜間経済戦略)」を正式に開始し、夜間の文化・消費・安全・規制を包括的に扱うプロジェクトが進行中である。夜を“問題”として抑制するのではなく、“価値”としてデザインする方向に舵が切られている点が重要だ。
このような都市・政策・生活行動の変化を背景に、ブランド各社が夜の時間を“新しい市場”として捉え、戦略の一部として活用し始めている。
以下に紹介する三つの事例は、いずれも2025年に実際に実施された最新施策であり、単なるイベント協賛ではなく、夜という時間帯の特性を前提に設計されている点が共通している。
Nike「After Dark Tour」——夜のランニングを“エンタメ”に変える文脈設計
Nikeによる女性向けランニングシリーズ「After Dark Tour」は、夜を舞台にした体験づくりの成功例である。
イベントはシドニー、ソウル、上海、ムンバイ、ロサンゼルスほか複数都市で夜間に行われ、街路はライト演出で照らされ、音楽・映像と融合した“夜のランニングステージ”をつくり出す。
Nikeが行ったのは、夜の安全をブランド単体で担保することではない。重視したのは、参加者が夜でも行動しやすくなる“状況と文脈”を設計することである。複数人で走る形式、視認性を高める照明、事前のアプリ案内、ルート共有など、夜の行動ハードルを下げる細かい工夫が随所にある。
さらに特徴的なのは、リアルの熱量をデジタルに引き継ぐ点である。走行データはNike Run Clubアプリに蓄積され、参加者同士がその記録を共有し、イベント後もコミュニティが自然に維持される。つまり“夜間体験 × デジタルコミュニティ”の二層構造を作っている。
日本では、夜の商店街イベントのスタンプラリー化、夜のアート巡り×アプリ連動、夜限定クーポン配布など、多くの応用可能性がある。“夜に行動を起こす理由”を作り、その後をデジタルで支える設計は、どの地域・業種にも展開できる考え方である。
