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MarkeZine Day 2026 Spring

事業と人を成長させる「強み」起点のマーケティング思考

戦略の質は「初期仮説」で決まる。元リクルートVP直伝・最速で“勝ち筋”を見つける「サーチライト思考」

「HOW(具体策)」にすぐ飛びつくのは危険。致命的な“方向ズレ”を防ぐ検証プロセス

 ここまでで、「現状分析 → 初期仮説の立て方」という順番で整理してきました。「このまま施策まで一気に行きたい!」という気持ちにもなりますが、実はここで一度立ち止まり、この初期仮説の方向性はそもそも合っているのか、ということを検証するプロセスが非常に重要です。

 HOW(具体策)は最後の最後に考えればよく、まずは仮説を立てた課題が正しいのかを精度高く特定しないと、打ち手を打った時に、気づいたら「時すでに遅し」ということになりかねません

 これは私の持論ですが、初期仮説の構築と検証をどれだけクイックに回せるかが、戦略策定の精度とスピードを左右する要諦だと思います。経験則としても、特に自分の解像度が低いビジネスドメインほど、最初に立てた初期仮説は高い確率で外れます。

  • 見落としていた観点が後から出てくる
  • 時系列で見ると別の構造が見えてくる

 といったことが起こり、その結果、「東西南北レベルで間違い」というほどではないにせよ、「東北のつもりが東南だった」といった方向のズレを、事業の現場で何度も経験してきました。

 よく「直感が一番正しい」という話も聞きますが、その直感が機能している方は、おそらく意識・無意識に関わらず、その領域で「初期仮説 → 検証 → 修正」のサイクルを何度も回してきた方だと思います。つまり、初期仮説の構築と検証を論理と数理で繰り返すことが、将来の“直感の精度”を高めるトレーニングになるのではないでしょうか。

【実践】初期仮説を「数値」で検証する

 先ほどの採用管理SaaSの初期仮説を使って、検証プロセスを簡潔に整理してみます。ここで大事なのは、できる限り「数値」で置き換えられるものは数値にして明らかにすることです。数値の精度はある程度“大まか”でよいのですが、桁感を誤ると判断を誤ることになります。

 検証も、(1)構造の把握 →(2)ルールの理解 →(3)比較という順番で進めていきます。

改めて初期仮説:現状のA社のターゲット層に対しては、「応募者を増やす具体的な施策」のほうが刺さる可能性が高く、今の“管理効率化”の訴求は、マーケットのニーズとズレているのではないか。

STEP1:構造の把握―市場の設計図

・中小企業の応募者数

  従業員30名未満では、3〜5件/月以上が約30%、1〜2件/月が50%、0件/月が20%。

・採用管理ツール導入率

  約7〜10%(中小企業対象の採用管理ツール導入調査)。

・採用手段

  ハローワーク、無料求人媒体で約70%(中小企業対象の求職媒体利用調査)。

・採用担当者の有無

  専任不在が80〜90%(社長または事務員が兼務して採用)。

▶検証結果:応募数が月2件以下の企業が約70%を占めており、そもそも採用を「管理する」ニーズがあるのは約30%未満である可能性が高い。よって、応募者不足のニーズが全体の約70%に存在すると推定できる。

STEP2:ルールの理解―制約の把握

・ユーザーのITリテラシー

  Email/Excelの利用はしているが、その他の業務システム利用は約70%が未経験。

・SaaS導入のボトルネック

  「システム導入は自分たちには関係ない」と回答する層が約65%。

・時間制約

  採用専任ではないことから、採用に充てられる時間は1日1時間未満。

▶検証結果:採用は「本業ではない」うえに、システム利用率も約70%が低水準。従って「管理効率化」を訴求しても、「システム導入に無関心層」が約65%もいるため、営業効率は極めて低いと考えられる。

STEP3:現象の比較―成功企業との比較分析

比較すると、B社(成功企業)は、

・メイン訴求:「応募者数アップ」「主要媒体との連携」など“応募増”に直結する価値を訴求。WEB上での獲得CPAも自社(A社)よりも約30%低くなっている事例あり。

 一方、A社は、

・メイン訴求:応募者管理の効率化、面接調整の自動化、連絡の自動化など“管理機能”が中心。WEB上での獲得CPAもROIが割れている状態。

▶検証結果:「成果(応募数アップ)訴求+主要媒体の連携」に訴求軸を変えるだけで、獲得コストが30%下がる可能性が高い。そのため、プロダクトの提供価値と戦略全体を再検討すべきだと言える。

初期仮説検証の結論

 現状のA社のターゲット企業の約70%の課題は「応募者不足」。ただし、応募が増えた後には「採用活動に充てる時間が少ないこと」が課題として顕在化する見立てである。応募数増加と採用効率化をセットで実現する方策を考えることで、約30%の獲得コスト削減と導入社数の拡大が見込めるのではないか。

 ここで重要なのは、「やるか・やめるか」を細部まで作り込みながら判断するのではなく、

  • この方向性に、さらに検討リソースを投下する価値があるか
  • それとも、ここで一度仮説を捨てて別の筋を探すべきか

 を、構造と数字に基づいてクイックに判定することです。

次のページ
初期仮説検証で判断に迷う場合はどうするか

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この記事の著者

金井 統(カナイ オサム)

NexGen Inc. CEO
新卒でNTTドコモに入社。端末のマーケティングを経験した後、iモードでビジネス展開をする会社へのコンサルティングに従事。その後、リクルートへ転職。マーケティング室のVP(ヴァイスプレジデント)として、横断の人材育成・知見流通とHR領域のマーケティング責任者を担当。HR領域におけるToC及びToB双方のプロダクト横断での事業・マーケティング戦略、ブランディングからdirectADやSEO等のネットマーケティング、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/12 09:00 https://markezine.jp/article/detail/50203

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