SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

新着記事一覧を見る

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2026 Spring

世界動向の先を読む「もう1つの視点」

「リアル×デジタル」が真に融合する時 Amazon ×Whole Foodsの「MFC2.0」が始動

 米国最新情報レポート「MAD MAN REPORT」を毎月発刊している榮枝洋文氏の視点を借り、国内外の企業の動きやグローバルの潮流を解説している本連載。今回は、Amazonが突入したリアル×デジタルの新フェーズにフォーカス。リテール領域では、アセット(資産)の投下が新たな競争軸として顕在化してきている――それがハッキリとわかるニュースを深掘りする。

MFC 2.0が示すリテール企業の「鍋底」の強化

 「MFC(Micro Fulfillment Center)」は、2020年頃の外出自粛で注目を集めた「店舗発・ご近所宅配」のモデルである。当時は来店減少への暫定策として注目され、乱立と淘汰を経てきた。そして今、Amzonが再度、実用段階へと進化させている。

 2025年11月にAmazonは、Whole Foods Marketにおけるオンライン注文をロボット配送で処理する新たな物流システムとして、MFCを活用した実験店舗の1号店を公開した。

YouTube「Amazon News」で公開された動画

 これは単なる「店舗在庫の宅配自動化」の焼き直しではない。自社の広大なエコシステムをWhole Foods全米600店舗へと持ち込み、生鮮品や医薬品など扱いの難しいカテゴリーも含めて、Amazon上に統合しようとしている。これこそ、「MFC2.0」と呼ぶべき新展開だ。

 Amazonが「宅配を開始した」程度の表層的な認知では、本質的な変化を見落とす可能性がある。この動きは日本企業にとっても示唆が大きいため、ポイントを整理して解説していこう。

生鮮品も一般商品も“同一カート”で注文可能に。次なるリテールモデルが現実化

 今回の実験店は、既存のWhole Foods店舗の敷地内にMFCを拡張併設する構造だ。米国の多くのWhole Foodsには十分な駐車場スペースがあり(日本における郊外ロードサイド店舗のイメージ)、その一角にMFC施設を増設した形である。

 MFCの中核システムはAmazonのAWS上に構築され、Whole Foodsの生鮮・日用品とAmazon.comの一般商品を統合して一括配送、または店頭でピックアップする仕組みとなっている。

出典
Whole Foodsで買い物しながら、棚にない商品もAmazon.comでカートに入れ注文している様子。オンラインで購入した商品は、そのまま店頭でピックアップor配送で受け取る。(Amazon プレスリリース

 ここで1つ目のポイント、「生鮮品と一般商品が “同一カート” で混載注文可能になる」という点に注目したい。これまで、生鮮品はサイトA(例:ネットスーパー)/文具やPC、日用品などはサイトB(例:Amazon)といった具合にサイトを使い分けるのが前提だった。だが、今回の実験店ではその垣根が消えている。「オーガニック野菜の購入」と「日用品の補充」が、一回の注文で完結する。

ホールフーズ
Whole Foods店頭には並んでいない洗剤をカートに入れている(Amazon プレスリリース

 また、MFCは単なる自社店舗在庫のオンライン受注・配送システムにとどまらず、「フルフィルメント=マーケットプレイス」としての機能を備えている点も重要である。Whole Foodsの店内では扱われない、コーラやケロッグといった量販ブランド品から、Amazon Marketplaceに出品するサードパーティ商品まで、Whole Foodsの取扱カテゴリー“外”でありながら同一カートで注文できるというわけだ。

 この本質は、MFCが自社在庫を捌くだけの装置ではなく「開かれたフルフィルメント基盤」として機能することにある。Amazonが提唱する「Store within a store(店舗内店舗)」モデルであり、購買部門間の摩擦を取り除く「Friction-less Shopping」の具現化であり、無限商品棚としての「Endless Aisle(エンドレスアイル)」化の一形態とも言えるだろう。

ホールフーズ
注文のあった商品がMFCでピッキングされる様子(Amazon プレスリリース

 日本でも「スーパーマーケット(生鮮品)」×「ドラッグストア」×「コンビニ(日用品)」の複合化に向けた企業M&Aや合併は頻繁に見られる。今回のAmazonの動きはその先にある未来像のようだ。

次のページ
中央集約型+600の店舗網を取り込む新フェーズへ、投資もシフト

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
世界動向の先を読む「もう1つの視点」連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2025/12/22 09:30 https://markezine.jp/article/detail/50227

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング