趣味で始めた展示が、動員数100万人規模に広がるまで
MarkeZine:明円さんを中心としたクリエイティブチームENTAKU produceが手掛ける企画展の累計動員数が100万人を突破したとうかがいました。若年層を中心にSNSで広く注目を集め、2025年にはアジア5都市でも展開されています。

そもそも、この企画展シリーズはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
明円:実は、最初は完全に趣味で始めたものだったんですよ。電通時代、新入社員の教育係を1年間務めることになり、その子が最初に「展示を作ってみたい」と言っていたんですね。ですが、当時の僕の仕事はCMプランナーだったので、展示を企画する機会は残念ながらありませんでした。
「それなら僕のポケットマネーでギャラリーを借りて、2人で展示を作ってみようか」とプライベートで始めたのが最初です。部署の同僚や友人などの身内を招待する、小さなイベントでした。
MarkeZine:最高にいい先輩ですね。それがここまでの規模になったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
明円:2022年に発表した『やだなー展』がきっかけです。『やだなー展』も一般のお客さんに来てもらうような形はイメージしていなかったのですが、身内を呼ぶつもりでXに投稿したら、すごく大きな反響があって。会場にしていたオフィスに行列ができたんです。その時に「あ、この展示は一般の方も楽しんでくれるものなんだ」と気づき、そこからは「どういうテーマならみんなが遊びに来てくれるかな、喜んでくれるかな」と考えるようになりました。


MarkeZine:その後、『いい人すぎるよ展』『気まずいすぎるよ展』『うれしいすぎるよ展』など、様々なシリーズを展開されています。シリーズの核にあるテーマは?
明円:『やだなー展』は口に出して言うことはないけれど、心の中で「やだなぁ」と思う日常の瞬間をたくさん集めた展示でした。初めて展示でのバズというものを体験して、もう1つ気づいたのは「(SNSでは)人の感情をテーマにしたものに多くの人が反応してくれる」ということです。そこからずっと感情をテーマにしたものばかり作っています。
MarkeZine:なるほど。『やだなー展』以降、基本的にはSNS上で広がっていったのでしょうか?
明円:そうですね。最初は40人だったお客さんが『やだなー展』で700人に増え、『いい人すぎるよ展』で4,000人、次の『いい人すぎるよ展』で2.5万人と、回を重ねるごとに動員数は雪だるま式に増えていきました。
僕は、SNSは「感情や本音の集合体」だと思っています。面白いと思ったもの、悲しいと思ったこと、怒り、喜びなどとにかく人の感情に大きく触れたものがSNSでは広がっていく。僕らの展示は、誰にも言っていなかった本音や感情にタッチするので、「あ、そうそう!」「それそれ!」とSNSで広がっていきやすいんでしょうね。SNSと相性がいいんだと思います。
SNSがもたらしたのは「他人の人生の可視化」、だから自分の休日も充実させたい
MarkeZine:SNSでの共感で終わらず、チケットを購入して企画展に足を運ぶ人たちには、どういったニーズがあると思われますか?
明円:SNSがもたらしたのは「他人の人生の可視化」です。友達が週末に何を食べて、どこに行っているかが常に目に入る。そうなると「自分の休日も充実させたい」と思うようになります。そういったときに、イベント、体験が必要とされるのではないでしょうか。
僕は企画展について、“競合”をあまり意識していません。たとえば、休日のおでかけ先の候補には、イルミネーションや紅葉、映画なども入ってくる。その選択肢の1つとして「展示でも行く?」とぽろっと出るようになったら、すごくいいなと思っています。
また、実は僕自身、美術の教養がないので、美術館に行くようなことはほとんどありませんでした。ですが企画展は、絵が描けなくても、アートがわからなくても、企画さえできれば誰でもできます。昨今、「○○展」といった企画展が増えているのには、そういった背景もある気がしますね。「○○展」の民主化が起きたのも、よかったなと思います。
