あえて隠さない「AI特有の不気味さ」と強烈なコントラスト
キャンペーンで使用されたビジュアルは、いずれも奇妙で、不自然さを隠そうとしないものだ。顔立ちや雰囲気はリアルだが、細部を見るとどこか破綻しており、「これは実写ではない」「AI生成である」と誰もが直感的に理解できる。たとえば、赤いダウンジャケットを着た教皇(法王)や、乳房が3つある女性など、一目でフェイクだとわかる生成AI特有の“ズレ”を強調したビジュアルが並ぶ。

(出典:Equinox)
一方で、それらの画像と対になるように配置されるのが、実際に鍛え上げられた人間の身体写真だ。ライティングや構図はシンプルで、誇張も装飾もない。コピーとして添えられているのは、「QUESTION EVERYTHING. BUT YOURSELF.(自分以外のすべてを疑え)」という強いメッセージである。
この構成によって、広告が語ろうとしていることは一瞬で理解できる。AIによって生成された“それっぽい偽物”と、時間と努力によってしか手に入らない“現実の身体”。その対比を通じて、Equinoxは「本物とは何か」「信じるべきものは何か」という問いを、視覚的に突きつけている。
「AIっぽさを消す」の真逆をいく。違和感をブランド価値に変換する発想
多くの企業が生成AIを広告に取り入れる際、共通して抱くのは「いかにAIっぽさを消すか」という発想だ。実写に近づける、違和感をなくす、人間の手による表現と見分けがつかないレベルを目指す。Equinoxの選択は、その真逆にある。
同キャンペーンについて、EquinoxのCMOであるBindu Shah氏は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し、次のように語っている。
「AIに関して、私たちはなかなか興味深い領域を進んでいる。ここで使っているものは、いずれも本人の正確な画像ではない。すでに世の中に出回っていて、トレンドになっているものをもとに生成されたものだ。私たちは挑発的なブランドであり、一定のリスクを取ることもある」
この発言が示しているのは、AIを“便利な制作ツール”としてではなく、メッセージそのものを体現する素材として使っているという姿勢だ。AIが氾濫し、現実と虚構の境界が曖昧になる時代だからこそ、あえてAIの違和感を露わにする。そのうえで、「だからこそ自分自身の身体や努力は疑いようがない」というブランドの価値観を際立たせている。
