モデレーションの難しさとコツとは?

油川:模擬インタビューを米田さんがやってくださったのですが、米田さんのやり方では「モデレーターは9割しゃべらない」が基本と教わりました。対象者の方が自主的に話してくださるのをどんどん引き出していく。沈黙になっても平気な顔で相手を焦らすことなく待つんです。もしシーンとしたとしても、そこでさりげない一言だけ投げる。すると対象者の方はまた勢いづいて語ってくれるようになる。
米田さんは慣れていらっしゃるからできると思うのですが、私たちは沈黙が不安になるんです。相手が話してくれればいいですが、もし黙ってしまったらどうしよう、と何度か思いました。
米田:自分はしゃべらずに、相手に主導権を握ってもらう。でも、ただ自由に話してもらえば良いわけではないのが、難しいところですよね。私たちが本当に掘りたいテーマに、どうやって話をピタッと合わせてもらうか。そこにうまく誘導するのが、モデレーションのポイントです。
実際にインタビューされてみて、見つけられたコツはありますか?
菅:先ほど出てきた事前の「宿題」は非常に有効でした。大切なのは、対象者の方に事前に話したいことを整理してきてもらい、また、こちらもしっかりと対象者から提出されている宿題を事前に確認してより深く聞きたいポイントを整理しておくことだと思います。あらかじめ書いていただいているので、私たちも「ここを掘りたい」というポイントがわかった状態で臨めます。これまでは、質問項目の順番に沿って進めるだけ、という形でしたが、今回は「自分たちが掘るんだ」という意識で参加できました。
米田:おっしゃる通り、事前の宿題に調査の目的をしっかり落とし込んでおくのは、うまくいくための条件の一つであって、簡単に真似できるところだと思います。「聞きたいことはこれだ」という狙いが定まっていれば、すべての質問はそれを聞くために存在する、という組み立て方ができます。
「まとめない」ことで見えてきたインサイト
米田:調査を通じて、他にどんな気づきがありましたか?
菅:強く印象に残っているのが「違う人の話を安易にまとめようとしてはダメ。お客さんを一人ひとりちゃんと見て、その一人のインサイトから新しい切り口を見つけようとすることが大切」という米田さんの言葉です。長年マーケティングをやってきたので、どうしても「二軸でまとめよう」「マトリクスにプロットしよう」という発想が強くあり、今までのまとめ癖を直すのに苦労しました。

米田:まとめる、というのは、バラバラのものをそろえ整った状態にすることです。まとめてしまうとせっかく聞き出した個々のストーリーが失われて、結局「お母さんは大変」「子育ては苦労が多い」といった常識的な話に落ち着いてしまうんですよね。確かにその通りではあるのですが、それで「お母さんの苦労を和らげます」という商品を作っても、今までの商品となんら変わらないものになってしまいます。
「子どもが歯みがきを嫌がるのを押さえつけて、達成感もあると同時に罪悪感でしんどい」という声があったとします。それを「子どもの仕上げ磨きは大変」とひとまとめにした途端、その人固有のリアルな感覚が全部消えてしまうんです。どんな時期にどんな苦労があるのか、せっかく深く聞き出したのだから、その個々のストーリーと向き合うことで新しいインサイトが見えてくるんです。
油川さんは何か発見がありましたか?
油川:私は子育て中の母親なのですが、自分の経験や苦労や悩みを通して、ずっとメンバーに言い続けていた想いが、今回のN1調査で対象者のお母さんたちから言及されたことで、やっと認識してもらえ、言語化できたことが一番うれしかったです。
今までの調査では、「おくちと全身の健康、どちらが大事ですか?」と聞いて「どちらも大事」と答えてもらっていたことから、社内的には、お母さんにとっては子どものおくちの健康も身体の健康も同じくらい大事、ということで納得されていました。しかし、今回は「今、お子さんの健康で何が一番気になっていますか?」という聞き方をしたことで、おくちの話はまず出てこなかったんです。「風邪を引く」「ぐずって食べない」「寝てくれない」――そういうことが先に出てくる。今回の調査でも10人中9人が全身の健康に関する話をしていて、「おくち」「おなか」が全身の健康に関わっていると答えたのは1人だけでした。
これまでも「サンスターだからおくち」というメーカー目線に引っ張られがちだと感じていたので、今回のN1調査でそのインサイトをしっかり掴めたのが良かったです。
米田:今回の調査でとらえたインサイトについてお話しいただけますか?
菅:今回のN1調査を通して見えてきたのは、表面的な将来志向ではなく、その人自身の過去の体験が、強いインサイトとして今の行動を動かしているということでした。
「将来のためにこうした方がいいですよね」という話になると、みなさん「そうだね」とおっしゃる。表面的には、みんな同じ方向を向いているように見えます。でも、もう少し深く見ていくと、はっきりした背景がありました。
