お母さんの想いを掘り下げ、掴んだ「Who」とは?
菅:将来に向けて意識をしたり、行動を取っていたりするお母さんには、「自分自身の過去の体験」という背景がありました。その中には、「自分が子どもの頃にお母さんにしてもらったことを、同じようにしてあげたい」という動機もありましたが、むしろ印象的だったのは、「大人になって振返ったときに、過去にできていなかった」「自分が子どもの頃にしてもらえなかった」といった後悔や気づきが、強い動機になっていたことです。これが、「自分の子どもには、今の自分以上の子育てをしてあげたい」という想いにつながっています。

油川:親って、自分の過去を重ねるんですよね。自分が子どもの頃に嫌だったこと、逆にうれしかったこと。「あれは自分の子どもにはしてあげたいな」と思う。でもその手前に、もっと根っこの気持ちがあると思うんです。
それは、「自分の子どもには、自分以上になってほしい」という想いです。子どもが自分以上になるということは、ある意味で、自分自身も救われる感覚がある。自分が小さい頃にできなかったことがあるから、「あのとき自分ができなかったことを、子どもにはさせてあげたい」と思う。それは単に「過去がダメだったからやめる」という話ではなくて、自分の分身とも感じられる子どもが自分を超えていくために、将来ちゃんと生きていってほしいという願いなんです。そういう想いを持っているお母さんが、今回のWhoなのではないかと思いました。
見つけた「Who」を活かし、ブランドパーパスをリニューアル
米田:ここで見つけたインサイトはとてもよい発見でしたよね。それを手がかりに、「SODATECO」のブランドパーパスも変更されましたね。
油川:はい。「今しかできない贈り物。一生ものの贈り物。」というものです。
米田:すごくいいですね。子どもを育てたことのある親の1人として、私も心が動きます。
菅:もともとは「SODATECO」のパーパスは「おくちとおなかの健康を通じて、子どもの健全な発育と成長を叶える」でした。誰もが「そうですよね」と言うものの、心が動かない内容でした。変更後のパーパスには、お母さんが子どものために健康な環境を作ってあげたいという視点が入っています。社内でもすぐに「これが良い」という声が集まりました。
米田:インサイトが見えてきたことで、Whoが固まり、Whatもターゲットにとって意味あるものに変えることができた良い例ですね。お母さんが子どもにできる贈り物で、それが一生もの。本当に良い言葉だと思います。売上への影響はいかがでしょうか?
菅:正直に言うと、Howの部分、つまりこの考え方をどう広げていくかという点については、まだ十分ではないと感じています。
油川:せっかく作り上げてきたブランドパーパスですが、まだまだターゲットのお母さんたちに認知していただけていないですし、売り場でも目にとめていただけていないのが改善点だと思っています。
一方で、売上が伸びている商品も出てきていて、手応えを感じられる部分もあります。大事なのは、単に商品を売るということではなく、商品を通してブランドの考え方を伝えていくことだと思っています。
米田:「SODATECO」の考えは、ある意味でパラダイムシフトなんですよね。これまで将来のことまでは意識しきれていなかったお母さんに対して、「実は、今やってあげることは一生ものの贈り物なんですよ」と伝えるわけですから、浸透には当然時間がかかる。今はじっくり取り組んでいくフェーズにあると理解しています。
では、最後に、今後の展望を聞かせてください。
菅:サンスターは「全身の健康」に貢献する会社です。おくちの健康がとても大事だということは皆さんわかっていらっしゃいますが、その入り口はどこかと考えたとき、やはり最初の習慣づくりなんですよね。小さい頃からおくちをケアすること、そしてそれを習慣化すること。「SODATECO」は、その入り口を担うブランドだと思っています。私たちの考え方に共感してくださる方に、しっかりと想いと商品を届けていきたいです。
油川:今は、調査で見つけたインサイトをコミュニケーションにのせることに全力を注ぐフェーズです。「SODATECO」はまだまだ知られていません。今は「しまじろう」をパッケージに載せることでも入り口を広げていますが、将来的にはブランド名からでも「知ってる」と言ってもらえるブランドになりたい。今回見つけたインサイトは変えずに、どうやってもっと多くのお母さんに広げていくか。そこが、これから取り組むべきテーマです。
米田:菅さん、油川さん、今日はありがとうございました。

米田からの「インサイト活用」TIPS
- 新しいインサイトを見つけたいときに重要なのは、一人ひとり(=N1)の具体的なストーリーである。
- N1からストーリーを引き出すのに有効なのがイマージョンという手法である。イマージョンは、行動観察から始まる。お宅訪問をしたり、実際の行動をビデオで録画してもらったりすることもできるが、事前宿題を出して、対象者の方にご自身の行動について記録してもらい、自ら深く振り返っていただいてからインタビューに来てもらうことでも、イマージョン調査ができる。
- N1インサイト分析で気を付けるべきは、せっかく出てきた個々のストーリーを安易にまとめてしまわないこと。まとめてしまうと、一つひとつのストーリーにちりばめられた新しいインサイトのヒントがなくなり、結局、既存の概念に落ちついてしまうので要注意。
