流行ではなくもはやカルチャー
GOKKOの仲子拓也氏は、冒頭「TikTokで泣いたことはありますか?」と会場に問いかける。同社が運営する「ごっこ倶楽部」では、クリエイターたちが60~180秒の短いドラマを制作。SNSで若者らの心を動かし「TikTokで初めて泣いた」などのコメントが寄せられているという。
ごっこ倶楽部は、縦型ショートドラマ専門のクリエイター集団だ。100人以上のクリエイターが脚本家や俳優として活動している。ごっこ倶楽部のSNSアカウントでは、総フォロワー数が460万を超え、配信されたショートドラマは累計130億回再生を記録。仲子氏いわく「『狙ってバズる』の大量生産ができる体制」だという。
そのごっこ倶楽部と協業し、ショートドラマ施策をマーケティングにつなげる取り組みを進めているのがセプテーニだ。2025年11月には、ショートドラマに特化したマーケティングソリューションを提供する「ショートドラマ・マーケティング・ラボ」を発足。ショートドラマを重要施策に位置付けている。
実際に若い世代では、ショートドラマのコンテンツが急速に存在感を増している。2024年には、TikTokで「#ショートドラマ」のタグが入った動画の再生回数が700億回を超え、Z世代が閲覧する主要なコンテンツになった。仲子氏は「流行っているというより、既にカルチャーになりつつある」と指摘する。
マーケティング戦略との連動に知見を持つ
では、なぜショートドラマの人気が高まっているのか。近年、スマートフォンで見るコンテンツが爆発的に増えたことに加え、特に若年層でタイムパフォーマンスが重視され、短い動画が求められるようになった。一方、これまでのドラマはテレビや映画館で見ることを前提とした横長の映像が主流。縦型に最適化された短尺ドラマがなかった状況で登場したのが、縦型のショートドラマだった。
「近年のエンタメの歴史を見ると、ゲームや漫画の形式がスマホの画面に最適化されています。遅ればせながら、その流れで縦型ショートドラマの需要も高まっているのです」(仲子氏)
セプテーニの江村氏は、ごっこ倶楽部との取り組みを進める上で「ショートドラマの広がりをマーケティング戦略とどうフィットさせるかが課題だった」と話す。
バズった後に、それをどう活用するか。マーケティングの成果として定量的に評価することが重要だ。そのためにショートドラマ・マーケティング・ラボを立ち上げ、企業の支援や分析などの取り組みを進めている。SNSだけでなく、テレビCMやデジタル広告と組み合わせて成果を最大化するスキーム作りにも取り組んでいるという。
企業主語のマーケティングになっていないか?
両社は、様々な業種の企業とショートドラマを活用したマーケティング施策を実施している。仲子氏によると、企業から寄せられる相談は主に2種類に分けられる。

一つは、テレビCMの施策を中心に実施してきたため、若年層にリーチできていないケース。もう一つは、デジタル施策を中心に実施してきたものの、成果が頭打ちになり、指名検索やブランド認知の向上を模索しているケースだ。どちらのケースも、大きな課題は「若年層向けのブランドマーケティング」にある。
若年層向けのマーケティングにおいて多くのマーケターが悩むポイントを、仲子氏は次のように挙げる。
・テレビ離れによってマス広告の成果が出ない
・デジタル広告を見てもらえない、スキップされる
・自社でSNSを運用してもバズらない
・インフルエンサーを活用したマーケティングは自社でコントロールしづらく、単発で終わってしまう
これらの悩みには、企業が自分たちの見せたいものを見せようとする「企業主語の広告マーケティング」を続けてきた背景があるという。
「企業が広告枠を購入して見せたいものを見せる手法から、生活者が見たいコンテンツを届ける手法に転換する必要があります。生活者や消費者を主語にした、コンシューマーファーストのコンテンツマーケティングを考えていくことが重要です」(仲子氏)
「どれだけ届いたか」を示す5倍のいいね数
では、若年層が「見たい」コンテンツとは何か。仲子氏は、Z世代の情報消費行動を表すキーワードとして「5S」を提唱している。
SNSのコンテンツは日々増加しており、若者らは短い動画を数多く見る傾向が強い。そのため、短い時間で強烈に引き付ける要素が必要だ。また、壮大なテーマよりも身近なものに共感して友人らに共有する傾向も強まっているという。学校で「これ見た?」というやりとりが交わされるため、トレンドをみんなと同時に知っておく必要もあるそうだ。
「短い時間で見て、その内容に強く共感することで誰かに伝えたくなる──この流れを循環させ、ユーザーが常にトレンドの最先端にいる状態をつくることが重要です。短いストーリーによって訴求する縦型ショートドラマは、若年層向けのマーケティングと相性が良いと言えます」(仲子氏)
実際に、ショートドラマのコンテンツはどのくらい若年層に届くのか。TikTokにおいて、広告動画を配信したケースと、ショートドラマをオーガニックで配信したケースを比較したところ、再生回数では広告動画のほうが圧倒的に多かったそうだ。しかし「いいね」の数はショートドラマが広告の5倍以上、コメント数やいいね率もショートドラマが圧倒的に勝っていたという。
「見たいと思わないものを見せられたのか、見たいものを見たのか。大きな差として表れています。『どれだけ流したか』ではなく『どれだけ届いたか』が重要です」(仲子氏)
ショートドラマ×広告配信でフルファネルをカバー
ショートドラマを活用したアプローチをマーケティングのファネルで見ると「認知フェーズの後半と、興味関心・比較検討のフェーズに効果がある」と江村氏は解説する。

認知の段階では、広告を配信しなくても、オーガニックのショートドラマの配信だけで効果があるという。その素材を活用してSNS広告を配信すれば、興味関心や比較検討の段階で高い効果を期待できる。若年層に見てもらいやすいショートドラマを素材として使うことで、広告に反応してもらいやすくなるためだ。
また、江村氏はショートドラマと連動したキャンペーンの実施も提案している。「ショートドラマをキャンペーンの応募促進施策や実店舗への来店促進施策と組み合わせて展開することで、購入などのコンバージョンにつながる」と江村氏。視聴数やクリック数などの数字で成果を判断できるため、施策を継続させやすいこともメリットとして付け加える。
「ショートドラマは、若い人たちに『いいな』と思ってもらいやすく、感情的なイメージ形成やブランドリフトに高いパフォーマンスを発揮します。それに広告配信を組み合わせることで、心を動かすクリエイティブをターゲット層に届けながら、マーケティング成果を高められるのです。ショートドラマを活用すれば、フルファネルのマーケティングが可能と言えます」(江村氏)
ドコモ、ミツカン、JAL、デニーズの成功事例も
ショートドラマを活用している企業の事例として、江村氏はNTTドコモの取り組みを挙げる。企業の知名度は高いものの、若年層におけるブランドイメージの希薄さが同社の課題だったという。その対策として、自社のSNS公式アカウントで多数のショートドラマを展開。従来のテレビCMの施策では、Z世代の施策認知率が10~20%だったが、ショートドラマ施策の認知率は49%に上った。
企業の公式アカウントではなく、ごっこ倶楽部のアカウントから、クリエイターとタイアップして制作したショートドラマを配信するケースも多いそうだ。食品メーカーのミツカンは、タイアップのショートドラマを約10本配信し、ドラマは3,500万回再生された。ブランドへの好意度や利用意向も向上したという。
個別の商品の販売促進を目的に、ショートドラマを制作するケースもある。日本航空は、羽田から沖縄・久米島への便の航空券販売を増やすためのショートドラマを制作。投稿前と比べて、航空券の予約数が約2.5~4倍に増えたという。ショートドラマと連動したクイズキャンペーンも実施し、キャンペーンページは20万PVを記録。応募者数の増加につなげた。
ファミレスチェーンのデニーズは、来店を促す施策を実施。ショートドラマを見た後に来店し、キャンペーンに応募する動線を設計した。キャンペーン応募者は5,000名を超え、想定以上の結果になったという。
最後に、GOKKOの仲子氏は「ショートドラマにまだチャレンジしたことのない企業も多いと思うが、これを機にショートドラマを活用したマーケティングをぜひ考えてもらいたい」と呼びかけた。思わず手を止めて見てしまうショートドラマ。若年層へのアプローチ手法として、新たな定番になっていきそうだ。
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