「衝動」は理性を超える。顧客の「無性に食べたい…!」をつくる
低単価の商材を扱う外食ビジネスにおいて、南雲氏が戦略の柱に据えるのが「衝動」だ。これまでの検証の結果、消費者は「理性・左脳に訴えられて動く人」と「直感・右脳に訴えられて動く人」がそれぞれ半数いることが見えていると南雲氏。先に出てきたPODの浸透は「理性・左脳」への訴求となるが、一方で大きく業績を上げるには「直感・右脳」へのアプローチも必要だという。
そこで、丸亀製麺は以下の三層構造でマーケティング戦略を組み立てている。
1. 一層目(POD認知・ブランディング):「麺職人がいる」「粉からつくる」といった、理性を納得させる他社との違い。ブランドを右肩上がりに成長させる土台となる。
2. 二層目(フェア商品):季節限定商品などで「今しか食べられない」という興奮状態をつくり出し、衝動の山を作る。
3. 三層目(新カテゴリー):「丸亀うどーなつ」や無料トッピングの拡充など、新しい価値の提案で顧客をワクワクさせる。

「強い衝動や興奮は、理性を超えます。頭ではわかっていても、抗えず無性に食べたくなってしまう。そんな本能的な欲求に火をつけるのが私たちの仕事です」(南雲氏)
過去、テレビCMの「うどんをすする音」に対してクレームが入ったこともあったが、南雲氏は「無風状態が一番悪い。反応があるのは刺さっている証拠」と断言する。リスクを恐れて「そよ風」「無風」のような施策に留めるのではなく、あえて強いフックを作ることで、圧倒的な行動変容、本能に突き刺さるような「衝動」をつくっていくのだ。
丸亀製麺のキーサクセスファクター(4)
衝動は理性を超える。本能・欲求の理解を深め、インサイトを探し、強い衝動・興奮をつくることが重要である
行き着くはEX×CXの向上、働く人の「内発的動機」こそが成長のエナジー
講演の終盤、南雲氏は同社が現在最も注力している「心的資本経営」について熱く語った。
「省人化・効率化こそが外食の道」という外食産業のトレンドに反し、丸亀製麺は「他の飲食店が行かない道をいく」と、人の心を重視する経営へと舵を切った。テクノロジーが進化していく時代、店舗価値の核心は「人」に戻ってくるという確信からだ。
南雲氏は、マーケティングの役割を「お客様だけでなく、働く従業員の内発的動機に火をつけること」と再定義する。そして、これはトリドールホールディングスが掲げる重要な経営テーマにもなっている。
「各種文献や過去の成功事例を読み解いていくと、従業員の働く幸せは『安心感』『繋がり感』『貢献実感』『誇り』の4つのサイクルでつくられることに行き着きました。このうち離職減に特に効果があるのは安心感と繋がり感、業績向上に効くのは誇りと貢献実感だということがわかってきています。
『もっとおいしいうどんを提供したい』『お客様に感動を提供したい』といった働くスタッフの内発的動機にいかに火をつけられるか――これはマーケティングの成果を高め、さらに業績を高めるために非常に重要なテーマなのです」(南雲氏)

EX向上の重要施策として、トリドールグループでは約4万人が利用する従業員専用アプリ「ハピ→カン!コミュニティ」を運用。社長の想いをリアルタイムに伝えたり、ブランドの垣根を超えて感動エピソードをシェアしたりすることで、組織の心理的な繋がりを強固にしているという。
さらに、各店舗の「ハピネススコア(従業員幸福度)」と、お客様からフィードバックされた「感動スコア」を可視化するダッシュボードを導入。スコアだけではなく、お客様からのお褒めの言葉が見られたり、独自のAIエージェントが各店舗ごとに日々アドバイスしたり、さらには感動スコアが1ポイント上がると売上がいくら上がるかを統計的に分析し、店長のアクションをサポートしている。
「自分の親や家族が飲食店に行くとき、250番の方~と記号で呼ばれるような効率化重視の店舗より、人が人を迎え、会話があって温かい気持ちになるという人間らしい店舗であってほしい。これから先の時代、“人間らしさ”はとても重要な要素になっていくと思います。CX×EXの向上が業績向上につながる。そして、これこそがAI時代に私たちが目指すべきブルーオーシャンだと信じてチャレンジしています」(南雲氏)
丸亀製麺のキーサクセスファクター(5)
EX向上から生まれる内発的動機が、選ばれるCX(感動体験)創造の鍵となる
南雲氏は最後に「マーケティングの力で、もっと日本を元気に、豊かにしていきましょう」という言葉を残した。この講演はテクノロジーの波に飲まれがちな現代のマーケターにとって、自らの「感性と主観」という最大の武器を再確認させる力強いメッセージ、激励になっただろう。
