インフルエンサーマーケで効果を感じられない企業がまだ多い
──はじめに、ご経歴と現在の役割を教えてください。
北出:新卒で大手総合電機メーカーに入社した後、外資系ECを経て、2013年からサイバーエージェントのAI事業本部でプロダクトマネージャーとしてのキャリアをスタートしました。Google・Yahoo!・Meta・Xなど主要プラットフォームの広告運用に関する開発を一通り経験した後、2016年末にLINEへ転職。LINE広告の初期立ち上げを担いました。
その後はスマートニュースでクーポンやチラシといった販促領域のプロダクトに携わり、独立を経て2024年2月にtoridoriに参画しました。現在はVP of Productとして「Vooster」を含めプロダクト全体を管掌しています。
──インフルエンサーマーケティング市場の現状をどのようにご覧になっていますか。
北出:個人的な実感としては2022〜2023年頃に多くの企業が「一度試してみよう」という形で参入したピーク期がありました。しかし現在は、市場は伸びているにもかかわらず、成長が鈍化しているような印象を持っています。特に多いのが「効果がよくわからなかった」という声。本来大きなマーケティング価値があるにもかかわらず、正しく評価されていないのです。この状況を変えたいと思ったことが、toridoriに参画した大きな理由の1つです。
コンバージョン、フォロワー数至上主義が失敗の根本要因
──インフルエンサーマーケティングで成果が出ない根本的な要因は何でしょうか。
北出:最大の要因は、追うべき価値を定義しないまま施策を実行してしまうことです。インフルエンサーマーケティングが本来強みを発揮するのはファネルの上部、つまり深い認知の形成です。しかしながら、Web広告のようなROIの感覚で来店数や購買数といったファネルの最下部をKPIにしがちな実態があります。インフルエンサーマーケティングでコンバージョンを追おうとすること自体、目的設計がずれていると感じます。価値をきちんと定義し、それに見合った指標でPDCAを回すことが必要なのです。
──インフルエンサーの選び方にも、成果が出ない要因はあるのでしょうか。
北出:そうですね。やはり「フォロワー数が多い人ほど良い」という考え方が根強くありますが、実のところフォロワー数は様々な手段で増やすことができます。そのため、数だけを見るのはリスクが高いのです。単純にフォロワーが多くても、ターゲットとの親和性が低く、投稿への関心が薄いフォロワーが混在していれば、当然エンゲージメント率は低くなります。
また、短期かつ少人数の施策で失敗するケースも非常に多いです。認知は継続的な露出によって積み上がるものであるため、毎月複数人に継続的に依頼するほうが、ユーザーが検索した際に常に上位に出てくる状態を維持でき、長期的な資産として機能すると考えています。
同予算でも高いインパクトへ。インフルエンサー選びの正しい指標
──では、インフルエンサーマーケティングで追うべき正しい指標とは何でしょうか。
北出:エンゲージメントです。いいね・保存・コメント・シェアといったアクションは、その投稿を見て実際に反応したことの証明です。ただ知ってもらうのではなく、興味を持って知ってもらうことがインフルエンサーマーケティングの最大の価値であり、それを正確に測れるのがエンゲージメントだと考えています。
──エンゲージメントを最大化するには、どのようなインフルエンサーを選ぶべきでしょうか。
北出:データを見ると、数千〜数万フォロワーのナノ・マイクロインフルエンサーが最もエンゲージメント率が高い傾向にあります。先述のとおり、フォロワーが増えるほど、投稿への関心が薄い人も混在するため、エンゲージメント率は低下していくためです。
実際に15万フォロワーと2万フォロワーのインフルエンサーがそれぞれ投稿した結果、エンゲージメント数は同等だったというケースも珍しくありません。同じ予算なら、フォロワー数の多いインフルエンサー1人よりも、マイクロインフルエンサー複数人に依頼したほうが、相対的なインパクトははるかに大きくなります。
AI時代だからこそ「信頼している人の言葉」の価値が高まる
──AIの進化がマーケティング全体を変えている中で、インフルエンサーマーケティングの価値はどう変化するとお考えですか。
北出:AIが大量の情報を生成する時代になるほど、人は信頼している人の言葉を選ぶようになると考えています。情報があふれる中でも、自分が信頼する人が「これが良かった」と言えば気になって調べ、最終的に購買につながる。この「信頼購買」という文脈において、インフルエンサーマーケティングの価値はむしろ上昇局面にあると見ています。
たとえば「昨日見たバナー広告や動画広告の内容を覚えていますか?」と聞いても思い出せないことのほうが多いでしょう。一方で、好きなインフルエンサーの発言は記憶に残ります。情報が氾濫するAI時代だからこそ、人からの発信が持つ価値は際立ってくるはずです。

北出:これはもちろん、Web広告が必要ないなどという話ではありません。Web広告はコンバージョンを追うラストタッチのフェーズに強く、インフルエンサーマーケティングはアッパー〜ミドルファネルの深い認知形成に強みがある。どちらかを選ぶのではなく、目的に応じて組み合わせることが重要です。
──なるほど。一方で、最適化へのプロセスという面ではWeb広告の多くがAIによって自動化が進んでいますが、インフルエンサーマーケティングではいかがでしょうか?
北出:AIの活用によって手軽になっていくのはWeb広告と同様です。最終的な出口は「信頼される人」が届けるという強みはそのままにしつつも、広告主様の商材や目的と相性の良いインフルエンサーとのマッチング、次回の施策に向けた効果の振り返りなど、効果を持続的に向上させるためのプロセスはデータに基づいた判断の仕組みが整備され、見直されていくと思います。なお、これにはインフルエンサー側のデータも必要であるため、専門的なパートナーとの協働が現実的でしょう。
9万人超のインフルエンサーのデータと連携するAIマッチング
──AIが手法を進化させていくなかで、貴社が展開する「Vooster」では具体的にどのようなアプローチで、これらの課題を解決しているのでしょうか。
北出:「Vooster」は「極力シンプルに、最も効果が出るインフルエンサーマーケティングを実現するツール」というコンセプトで開発しています。
具体的な機能としては、広告主様に商材情報と予算・採用上限人数を入力していただくと、toridoriが保有する9万人超のインフルエンサーのデータとAIマッチングにより、その商材に対して最もエンゲージメントを生み出せるインフルエンサーを自動で選定し、オファーを送ります。担当者の感覚や経験則に頼っていた選定を、110万件を超えるPR実績データに基づく判断に置き換えることで、専門知識がなくても最適なインフルエンサーに出会える仕組みを実現しています。
──費用体系も、従来のサービスとは異なるのでしょうか。
北出:フォロワー数に基づく単価制や月額固定ではなく、インフルエンサーが生み出す想定エンゲージメント量を基に費用を算出する仕組みを採用しています。インプレッション数でもフォロワー数でもなく、実際に届いた反応に連動した課金モデルです。初期費用・固定費もゼロなので、広告主様が納得感を持ってスタートしやすい設計になっています。これまでインフルエンサーマーケティングに踏み出せなかった企業や、以前一度試して手応えを感じられなかった企業にも、改めてお試しいただける入口として機能できればと考えています。
インフルエンサーマーケットの土台を広げる
──今後、Voosterをどのように発展させていきたいとお考えですか。
北出:対応SNSプラットフォームの拡充を進めています。TikTokへの対応は既に完了しており、今後はThreadsへの対応も予定しています。現在Threadsは国内外で伸びており、注力プラットフォームになっていくと見ています。また、広告主様が投稿前にコンテンツを確認できる事前レビュー機能なども順次追加し、安心して活用できる環境を整えていきます。広告主様が自社のSNSアカウントと連携させながら発信力を育てていける、そこまで支援できるプラットフォームを目指しています。

──どのような広告主に「Vooster」を使って欲しいと考えていますか。
北出:地方の店舗をはじめ、マーケティングに専門知識やリソースを割けない中堅・中小企業の事業者の方々に積極的に活用していただきたいと思っています。地方の事業者ではインフルエンサーマーケティングに関心はあっても、正しく活用できていないケース、インフルエンサーとのマッチングや代行などの費用が大きくかさんでいるケースも多く目にします。マーケティングの知識を問わず、そうした方々がインフルエンサーマーケティングの効果を最大限に実感できる設計にしていくことが、私たちの使命だと感じています。
将来的には海外展開も視野に入れており、訪日外国人向けのインバウンドマーケティング支援として、現地言語での発信ができる仕組みの開発も予定しています。インフルエンサーマーケティングの土台を広げ、その価値を正しく届けるための挑戦を続けていきます。

