課題解決のための施策1:仮想化
下妻氏は、これらのテーマを達成するため、「仮想化」と「アウトソーシング」の2つのアプローチを行ったと語る。従来、PCサーバの拡張において物理的に増やす方法が一般的であり、場合によっては、現在でも有効と言えるが、昨今PCサーバのスペックの向上や仮想化技術の成熟によりハードウェア的にはどんどんスケールアップしているという。
LAMPの環境では、マスターのデータベースのパフォーマンスが許す限りWebサーバを拡張しつづけ、マスターデータベースのパフォーマンスが問題になってくると、その中の一部の機能を分離してデータベースを補充していくというような手法がとられることが多い。これを仮想化する場合、1番単純な部分はWebサーバだと下妻氏は説明する。
今回の事例では、これまで増えて40台になったWebサーバ群を仮想化し、より少ない台数の構成にまとめた。あるコンテンツがキャンペーンなどで一時的にリソースが必要な場合は、仮想化したサーバをコピーして別の環境で動作させたりして簡単にWebサーバを増やすことができるという。新規のWebサーバを追加する場合も、あるサーバの設定をコピーして早期に導入したり、サーバが壊れた場合も含め、ハードウエアを動かすことなくOSを移動するだけでリソースの増強ができるようになったという。
データベースの仮想化については、Webサーバのように単純でないという。仮想化するとOS、アプリケーションは仮想の環境で冗長ができるが、唯一ハードウェアのI/O、ディスクのIOに関しては、ハードウェア単位で共有せざるを得ない。下妻氏は、データベースを仮想化する場合には、実際のI/Oの負荷の状態をよく観察して考慮しながらハードウェアを選択し、仮想するかしないかを判断する必要があると、データベース仮想化の注意点を指摘した。今回の事例では、I/O負荷が高いコンテンツについては実機で運用し、それ以外については仮想化にしたという。
課題解決のための施策2:アウトソーシング
仮想化により、プロジェクトのテーマの半分は達成したという下妻氏。残りの半分はもう1つの切り口、アウトソーシングだ。これについては、同社のサービス「プロアクティブ・ホスティング」と「運用マネージメントサービス」で対応。サーバの設定変更やバックアップやメンテナンス、セキュリティ対応、監視、モニタリング、改善提案などを行うことで、顧客側の担当者の負担を減らし、また担当者の個人スキルに依存するリスクも軽減した。
同社がモバイルコンテンツの創生期からかかわり、事例に挙げた経験などから、下妻氏は本講演の最後のテーマである「システム運用の新基準」について語った。
コンテンツプロバイダーの担当者から「自分たちはコンテンツを作るのが仕事。障害対応は別に仕事ではない」という声をよく聞くという。これは、先行きが不透明な状況で勝ち残るために、コアビジネスに注力したいという気持ちの表れだと下妻氏は指摘する。今回の事例の場合、同社が提供した仮想化技術とアウトソーシングでの運用を利用することで顧客は本業に注力できるようになった。しかし、それで同社は満足しているわけでなく、最適な運用を継続し、未知の障害に対し先手を打ったり、柔軟に対応したり、またそれらの対応手法を標準化しているサイクルが重要で、自社だけでなく最適なパートナーと組むという構想もあるという。
最後に下妻氏は「私達はこれまで多くのサーバシステムの運用に携わり、ノウハウを吸収しています。そのノウハウでお客様とともに歩んでいきたいと考えています。『あなたの側であなた以上に考える』が私どものモットーです。常にお客様と、目標、目的、危機感、問題を共有できる存在でありたいと思っています」と同社の心構えを伝え、講演を締めくくった。