神田昌典氏について
著者、神田昌典氏は非常に珍しい経歴を持っている。
まずは電機メーカーに勤めたのだが、そこが戦略を変えたことで本社の市場が大きく変わってしまったのだった。そして、日本よりも中国の支社のほうが市場として魅力的であるということから、本社はシンガポールへ移転することとなったのだ。当然、神田氏はクビである。他の社員も同様であった。
しかし神田氏は、日本の残務処理のために半年間だけ日本にいさせてくれ、と取締役に懇願した。本音は、半年の間に事業が立ち上がればまた事業拡大の方向に持っていけるだろう、という目論見であった。そして、神田氏と女性社員一人のみが残されることとなり、事務所は取引先の一室を貸してもらった。
神田氏は焦っていた。
「何とか大手の取引先を獲得しなければ…」
猶予は180日間。一刻たりともムダにできない、という気持ちがあったのだろう。しかし、神田氏にとっての180日間が、彼の人生の転機を作った。この期間が、神田氏独特の感情マーケティング実践の第一歩といっても過言ではないだろう。これらの細かいエピソードについては本書を参照していただこう。
本書は1999年に刊行された単行本である。書評するとしたら、多少古いものではある。しかしながら今、マーケティングに携わる向きには、「ああ、なるほど」と、ある種新鮮な著作かもしれない。「エモーショナルマーケティング」つまり、「感情マーケティング」。お客の立場に立ったマーケティング。これを疎かにしてはオンラインどころかマーケティング戦略自体もサイクルが鈍ってしまうことを本書は教えてくれる。オンラインマーケティングで広告を出稿する際にも参考になる実践書でもある。本書は2時間ほどで読めるライトな構成となっているので、難しいマーケティング書に手を出す前に、是非ご一読いただきたい。