隣に置かれるライバル商品をイメージ
差別化点と同化点を想定し終えたら、さっそく上手い位置取りができているかどうかチェックしてみることにしましょう。そのためには、全体を俯瞰で見るのが効果的です。
あなたの企業の商品がオレンジ果汁入りの微炭酸ドリンクだったとします。目の前にはコンビニエンス・ストアの冷蔵庫の棚があります。あなたの商品は、どのような商品の隣に並んでいると想定しますか?

同じ飲料でも、オレンジ果汁入りの微炭酸ドリンクはアルコールではないので、間違ってもビール・発泡酒の棚には並ぶことはないでしょう。このことは買い手である消費者も、売り手であるコンビニエンス・ストアも、あなたの商品に対して「かなり高い確率で、ビールの第一の競合品にはならない」という認識を持っていることを示しています。実際にはほぼ100%、ソフトドリンクの棚に並ぶでしょう。しかしソフトドリンクといっても、かなり幅があります。また缶コーヒー・紅茶・日本茶・ミネラルウォーターなどは、あなたの商品はかなり距離のあるところに置かれることになるでしょう。では、何が近くに並ぶのでしょうか? 同じ炭酸系でもコーラは少し遠れた位置に配置されそうです。
可能性が高そうなのは、「無炭酸の果汁入りドリンク」でしょう。オレンジ果汁が入っているという同じ括りで、隣り合わせになるかもしれません。もう一つ候補があります。それは「微炭酸の無果汁ドリンク」です。果汁が入っているかいないかは、この場合は問題ではなく、微炭酸であるということが一つの括りになっています。そしてこのどちらの考え方も、消費者にとって奇異なものではなく、自然に受け入れることができるものです。ですからライバルがどちらになるかは、あなたの商品の運命を左右しているとも言えます。
さて、「棚に並べてみる」という行為を通して、あなたの商品が消費者、時には流通から、どのように見えているかという消費者本位のチェックができたかと思われます。そして「無炭酸の果汁入りドリンク」と「微炭酸の無果汁ドリンク」の2つの候補のうち、どちらの隣に置かれたいかは、あなたがポジショニング戦略を設計し、意図的に仕向けなくてはなりません。もちろん、全てが狙ったとおりに叶うわけではありませんが、少しでも有利に戦いを進めるために、どのような位置取りにするかを想定することは大切なことです。これがポジショニングを考えるということに他なりません。
ですから設計されたポジショニングを実現するために、さまざまな施策を投じる必要があるのです。具体的な施策としては、まずは「名は体を表す」の格言どおり、ネーミングです。さらにパッケージの開発をします。果汁感を前面に押し出すのか、または炭酸感を押し出すのかで、位置取りが随分と変わってきます。もちろん広告のキャッチコピーでも左右されるでしょう。広告に出演するタレントのイメージでも、随分と与える印象ががらりと変わってきます。このような施策を設計する前にポジショニングを規定することが、いかにその後の意思決定を左右するかは、容易に想像がつきます。
商品が購入される瞬間をイメージする
スーパーマーケットやコンビニエンス・ストアに並ぶような商品ならば、“棚”をイメージすることは、比較的簡単です。しかし、仮にあなたの扱っているものが、無形のサービスであったとしても、あきらめないでください。むしろ棚をイメージしにくいからこそ、“仮想の棚”を想定して並べてみることで競合に差をつけるチャンスがあるというものです。
オレンジ果汁入り微炭酸ドリンクを購入する消費者にとって、購入場所であるコンビニエンス・ストアの棚の前に立っている時間とは、「消費者がレジで商品を買う瞬間から少しだけ、時間というビデオテープを巻き戻したタイミング」だと言えます。物理的には購入の少しだけ前の時間となりますが、消費者にとってはこの商品を購入しようと強く意識する決定的な瞬間なのです。「自分の商品やサービスにおいて、どのタイミングで購入意向を購入へと決定付ける瞬間が訪れるか」と考えてみるのは、仮想の棚を見つけ出す上で重大なヒントとなります。
家電の場合は、家電量販店のパンフレットのラックが仮想の棚かもしれません。この場合は、自宅に持ち帰って比較検討しているシーンまでもが、仮想の棚の前にいる状態と言えるでしょう。また、検索エンジンでの検索結果画面も仮想の棚と考えることもできます。この場合には、検索結果におけるSEO(Search Engine Optimization)戦略の方向性を、ポジショニングが大きく左右することになるのです。
ポジショニングが、商品やサービスのネーミング、広告、SEOなど、あなたのマーケティング戦略において、切っても切り離せない概念であることが、おわかりいただけたのではないでしょうか?

