「まず導入」から「評価・改善」のフェーズに入った動画活用
動画共有サイトから火が付いたネットでの動画視聴。YouTubeなどの動画を貼る個人ブログは数年ほど前から散見されていたが、ここ1年ほどで企業サイトでの動画掲載も広まり始めている。半年ほど前からは楽天の出店店舗上でも動画配信がスタートするなど、自社サイトのパフォーマンス改善策として動画に関心を寄せて実際に導入する企業の数は増えつつある。
日本よりも一足早く動画の利用が広まっているアメリカでは、コンバージョン率向上などの目的で動画を使って差別化を図るのはもはや当たり前のこと。「まず導入してみる」というフェーズは既に越え、「動画のROIを評価して改善を図る」という次のフェーズに移ってきているという。
動画配信プラットフォームをSaaS(Software as a Service)で提供するBrightcoveのマーケティング&プロダクトマネジメント シニアディレクター 須賀正明氏(写真左)は、「アメリカでは既に動画がないとコンペに勝てません。次の段階として『動画をどれだけ効率的に活用するか』という点に焦点が集まりつつあります。みんなが動画を使っているだけに、自分たちの動画にどれだけ付加価値を付けられるかが問われてきているわけです。われわれのような動画配信プラットフォームを扱う企業でも、分析機能で差別化を図る企業が現れ始め、非常に力を入れるようになってきています」とアメリカでの事情を明かす。
サイト解析の時にはページビュー、ユニークユーザー(UU)、セッションの数などが追跡されるが、動画では再生された回数、何秒まで再生されたか、UUあるいはセッションあたりの再生回数といった指標が追われることになる。
新たな効果指標が登場することになっても、やはり最終的に重視されるのはROI。「ただ動画を載せるだけではなく、お金を掛けて作った動画の効果はどうだったか、さらに効果をもっと高めるためにはどんな動画にすればよいかという点が重視されるようになってきています」(須賀氏)
1分では長過ぎる。完聴率50%越えが1つの目標に
Brightcoveの提供するプラットフォームに付属のAnalyticsモジュールには、先に挙げたような動画の再生回数、視聴時間、ユーザーの離脱状況、セッション当たりの平均視聴時間などを把握するための機能が備わっている。さらにアクセス解析ツールと連携させることで、動画視聴からコンバージョンにつながったか、動画の何%程度まで視聴したユーザーがどのような行動をしたかを追跡する、といった高度な分析を行うことも可能だ。
同社の解析ツールなどで得られたユーザー動向に基づいて改善を重ねた結果、アメリカでは動画1本の時間はどんどん短くなってきているという。
「企業が考えているより、ユーザーは忍耐力がないようです。1分の動画を流しても、15秒でユーザーが離れてしまっていたということはよくあります」
特に再生中のビデオ内にどんなコンテンツが含まれているのか、それが分かりにくいビデオは最初の15秒での離脱率が高くなってしまう。
離脱を防ぐためには、何のためのビデオかを最初の10秒程度で明示すること。動画の背景も黒バックで始めるのではなく、静止画でもよいので魅力的な映像を見せることが重要だという。動画のクライマックス場面の手前のシーンを見せるなど、通販番組のようなつくりも好まれるそうだ。
ユーザーが長い動画を見てくれない分、3本だった動画を1分の動画3本に分割し、ガイド付きで並べて見せる、この動画を見たら次はこの動画といったようにレコメンドする、といった手法が広まっているのだとか。
「ビデオの内容にも寄りますが、1分を越える動画の数は少なくなってきています。当社もサイトで導入事例を動画で載せていますが、2~3分の長さがあります。やはり顕著に離脱されていて、最後まで見てくれる人は3分の1程度しかいませんね」
一方、同社のiPhone向けSDKのデモをまとめた動画は最後まで完聴した率が76%。完聴率はコンテンツ次第のところもある。概して言うと、完聴率が50%を越えれば良い動画として評価できるようだ。
動画は外部サイトでの視聴数を無視できない
Brightcoveのツールを使って動画の解析をする上で、特徴的なのは外部サイトでの再生数なども追跡できるところ。冒頭でも触れたが、YouTubeなどの動画がブログに貼り付けられることが多いように、自社サイト以外で再生される数も無視できない。特に音楽系の動画などは外部サイトでの再生数が多いそうだ。
「3分の1から3分の2くらいは外部サイトで再生されています。動画が視聴された回数のうち、40%程度はSNSからだったというお客様も居ます。一概に言えることではないのですが、無視できない量であることは確かです」
動画以前のやり方では、訴求したい情報は自社サイトでないと伝えづらい。だが動画という訴求手段を得たことで、プレーヤーさえ設置できれば訴求する場所は自社サイトでなくても構わなくなったということだ。
「アメリカでは、特にFacebookの活用が増えてきています。先日もヒラリー・クリントンのスピーチがあった時に、国務省のサイトでライブ配信したほか、Facebook内にある国務省のページでまったく同じプレーヤーを置いて配信されています。Sony Musicではコンサートのライブ中継などもレコード会社のサイト、アーティストのサイト、Facebook、さらにファンサイトで配信された実績があります。自社サイトだけでトラフィックを集めようとすることには限界が出てきています。そうなった時に視聴数を稼ぐためにはどうすればいいのかと考えていくと、既に人が集まっている所に置くのが1番早いと。SNSやTwitterを利用しないわけにはいかないのです」
YouTubeに動画を載せて、最初の15秒程度だけ見せて「後はこちらのWebで」と誘導する手法もある。TwitterでURLを入れてつぶやくという手もある。いずれにせよ、動画を活用したマーケティングで成功するには、外部のサイトをどう活かすか、そこを考慮に入れておく必要があるようだ。
アクセス解析同様に運営者の継続的な取り組みが成否の鍵に
動画を商品訴求の目的で導入したことで、コンバージョン率を1.4%から8%近くにまで改善させた事例もあるが、一口にROIと言っても、サイトによって改善対象とする指標がコンバージョン率のみとは限らない。前述の外部サイトでの自社動画の広まり具合を評価するため、どんなサイトで掲載されてどの程度の流入が得られたのかと注視するケースもあれば、ECサイトで商品返品率の改善を図ってセッション当たりの動画再生数を増やして商品理解を高めようとするケースもあるかもしれない。
音楽サイトやニュースサイトなどでは動画を載せることでサイト滞在時間が延び、1セッション当たり30秒だった滞在時間が1分30秒と3倍程度に伸びたという事例もある。ユーザーとの接触時間を増やすことで、目当てのアーティスト以外の楽曲をレコメンドする機会を増やす、バナーなどの広告に触れる時間を長くして広告価値を高める、といった目的で動画を利用しているサイトもある。
Webサイトとアクセス解析の関係にも通じる話だが、サイトを作るだけ、動画を導入するだけでは意味がない。運営者としてWebサイトで実現したい目的を達成するために動画を活用するのだという視点を忘れてはいけない。
「動画は既存のWebサイトの解析とは違うので、新しいメトリクスが必要なのは間違いありません。物を売る、滞在時間を増やす、企業によって目的は違ってくるでしょう。ですが、通常のWebマーケティングと同じように、滞在時間を長くする、コンバージョン率をよくするといったビジネスに結び付く成果を上げられるように考えていくべきでしょう」
いくつか動画のパフォーマンスを改善する策を紹介してきたが、全サイトに共通する正解が存在しないこともアクセス解析と通じる話だろう。Webサイトのアクセス解析と同様に、成果を上げていくためには、動画のパフォーマンスを正しく把握できるツールを導入したうえで、Web担当者が労を惜しまずPDCAサイクルを回していく必要がありそうだ。