ビジネスモデルとリンクさせてネットワーク拡大につなげた仕組みの巧さ
ネットワークの拡大、会員の訪問頻度の向上につなげるための機能面について触れてきたが、LinkedInのうまさを感じるのは、機能面だけではなく、むしろそのサービスとしての仕組み。会員が自然と知人を招きたいと思うような仕組みになっているのだ。
LinkedInの利用は基本的に無料。商談や採用などの目的で「こんな条件を満たす人に連絡を取りたい」という時に、直接の知人ではない人で条件を満たす相手を見つけたとする。その相手が「知り合いの知り合いの知り合い」までに含まれる相手だったとしたら、間に居る知り合いに紹介を頼めばいい。了承されれば連絡が取れるようになる。あるいは、学歴・職歴などから共通の項目が見つかれば、希望の相手に直接連絡を取ることができる。
ただ、そのどちらにも該当しない場合には、LinkedInの有料会員サービスに登録しなくてはならない。「Business」「Business Plus」「Pro」という月額24.95ドル~499.95ドルの3つのプランから選んで課金することで、1通当たり5~10ドル程度でDMを送れるようになる(1番高い「Pro」が1通当たり約10ドルと最も費用対効果が悪いのは面白い)。ちなみにDMへの返信率は30%ほどになるという。日本では転職情報サイトのスカウトメールへの返信率が10~20%程度と言われているから、決して悪くはない数字だ。
Business、Business Plus、Proの3種類の有料会員サービスが用意されている

このような仕組みがあるためにLinkedInで人捜しをするなら、目的の人物が「知り合いの知り合いの知り合い」の中で見つかるように、登録を促して直接の知り合いの数を増やさなくてはならない。あるいは学歴・職歴などのプロフィールを充実させることでマッチ率を高める手段も有効だ。
つまり、LinkedInを有効活用したいのなら、金を払うか、知り合いを連れてくるか、プロフィールをリッチに入力するか、という3つの選択肢の中から選ぶ、あるいは組み合わせることになる。SNSの価値を高めるか、直接の収益になるかの違いはあれ、どれもLinkedInの利益になること。この仕組みは実によく考えられている。
このほかにも求人企業向けの求人広告メニュー、人物情報を踏まえたターゲティング広告など、信頼できる実名SNSだからこそのマネタイズ手段を備えている。FacebookやMySpaceが黒字化するまで苦戦していたのに対して、LinkedInは2006年には早々に黒字化。2009年には1億ドル以上の売上高を記録したと噂されている。
LinkedIn日本版は成功するのか?
タイムマシン経営でアメリカの優れたモデルを取り入れて成長してきたところもある日本のIT業界。当然、ビジネス特化型SNSはこれまでにいくつもリリースされ、そしてどれも成功できないまま消えて行ってしまっている。
ヤフーによる「CU」、リクルートの「人脈BANK」といったサービスはどちらも終了してしまっているし、そこそこのプロフィール情報を保有している「SBI Business」は譲渡されて運営元が変わっている。
実名で情報を公開するのに抵抗感があり、アメリカほど転職・ヘッドハンティングが盛んではない日本の風土にビジネス特化型SNSは馴染まないと見る向きが大勢なようだ。
ただ、2007年のデジタルガレージとの発表以来、表立った動きが現れていないとはいえ、LinkedInは2010年に入ってからポルトガル語、イタリア語のバージョンをリリースした。世界展開に力を入れているのではないかと邪推すれば、日本でも近いうちに何らかの動きがあるかもしれない。
ビジネス特化型SNSを成功させたLinkedInが日本で本気を出したらどうなるのか。まだ足を踏み入れてきてさえいない状況だが、その結果が気になるところだ。