起業のおとぎ話はこんな風にはじまる
著者のガイ・カワサキは、アップルコンピュータの草創期に、スティーブ・ジョブズが成功に導いたマッキントッシュのエヴァンジェリストとして活躍。現在はベンチャーキャピタリストとして、ブロガーとして名を馳せている人物だ。本書『アップルとシリコンバレーで学んだ賢者の起業術』の原題は“Reality Check”。起業で失敗しないために、現実に目を向けて何をチェックすべきかをまとめたものである。
ガイ・カワサキは、ベンチャーキャピタリストとして何百という起業家の売り込みを聞いてきた。「そのほとんどはクズ同然である」と彼は言う。本書の最初の章にはこんな文章がある。「おとぎ話だとこんな具合だ。……ガレージのふたり組がよいアイデアを思いつく。……会社はすぐに利益を出し、グーグルをしのぐ規模の上場を果たす。――おとぎ話は現実にはありえないけれども」。
「ソーシャル・ネットワーク」の孤独な創業者だけに見えていた“現実”
しかし、世界に5億人のユーザーを持つSNS「フェイスブック」の立ち上げから成功にいたるまでを描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」を見ると、創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は、現実にはありえない「おとぎ話」を地で行っているように思える。しかし、そのストーリーはおとぎ話のならいで残酷でもある。
ガイ・カワサキは本書を書いた目的として「大願成就を期す筋金入りの起業家に筋金入りの情報を提供したかった」と述べている。「正しい財務予測とは」「ネーミングの注意点」「スティーブ・ジョブズ並みのプレゼン」「クビ切りの作法」といった内容のほかに、「べンチャーキャピタリストの嘘」「起業家の嘘」「弁護士の嘘」「エンジニアの嘘」など、さまざまな種類の嘘について語られる。実は、そのどれもがちょっと考えればわかるような嘘である。しかし、起業家の足が地に着いていないとき、何かを信じたいと思ったとき、うっかりそうした嘘を信じてしまうのだろう。本書の原題でもある“Reality Check”は、そういうときに役に立つ。
映画の中のザッカーバーグ氏は、誰からも好かれない、裏切り者の孤独なオタクとして描かれている。しかし、彼だけには“Reality Check”ができていたのだと考えることもできる。それは本書と映画を見た人にはわかるだろう。
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