この連載で意図してきたこと
これまで5回に渡って、以下のようなトピックを取り上げてきた。
- 縦長いページデザインは是か否か? 楽天におけるスクロール量計測導入の裏側
- Twitterは売上に貢献するのか? TwitterマーケティングにおけるKPIの再検証
- 外部リンクは別ウィンドウで開かせるべきか? アクセス解析でユーザー行動を理解する
- キャンペーンの間接効果は解析できるのか? アトリビューションの計測・実装方法を考察する
- エンゲージメントは解析ツールで測定できるのか? 中間指標を作り出すスコアリング手法の考え方
どれも、ベンダーやコンサルタントではない「現場リーダー」として筆者が実践してきた体験に基づく、リアルな「日誌」だ。定番・王道をあえて避け、アクセス解析としてはまだ一般的ではない考え方と計測・分析方法を中心に紹介してきたのは、次のメッセージを伝えるためだ。
1. アクセス解析の常識を忘れてクリエイティブに考えよう
アクセス解析はまだ発展中の分野にも関わらず、歴史的な経緯やツールの技術的制約、よくある機能によって、狭く偏ったイメージができてしまっているのではないか? ページビューや訪問、直帰率、滞在時間のような単純で限定的な指標だけでは「なるほど」で終わってしまい、改善のアクションを起こせない。ツールが表示する数字を受け身で眺めていても、得られるものは少ないのだ。
最近は、セグメントを切ったり時系列でトレンドを追うことで意味を読み取るという考え方が少しずつ普及してきたが、もっとアグレッシブで多面的な計測・分析方法を具体的に紹介することで、このイメージを壊したい。常識を忘れて工夫すれば、アクセス解析の可能性は無限大だ。
2. アクセス解析は制作・開発者も活用すべき
アクセス解析はマーケティング部門が導入・運用を担当することが多いが、制作や開発部門にとっても役に立つ。筆者は大規模なネット企業におけるユーザーエクスペリエンス/制作部門に属していたこともあり、Webデザイナーやディレクター、エンジニアから相談を受けたり、活用提案をすることが多かった。モノ作りに携わる彼らは、作ったモノの効果や貢献度を知りたがっている。ユーザーにとって役に立つサイトを作りたいと思っている。
アクセス解析をうまく活用すれば、「Webサイト上でのユーザーの行動を定量的に理解できる仕組み」を実現できる。初期の設計と実装に少し労力が必要だが、その後はほぼリアルタイムで継続的なレポーティングが可能になる。アンケート、インタビュー、ユーザビリティテスト、視線トラッキングなどの調査手法と組み合わせれば、制作・開発物の品質を高めるための有益なデータが得られるのだ。
ビジネスモデルや社内体制が何であれ、ネットを活用する企業とユーザーの接点になるのは、サイトやアプリのデザインであり、ユーザーインターフェイスだ。それを専門的に考え、設計や構築に携わっているデザイナーやエンジニアを巻き込むことができれば、ユーザーを理解し、より良いサービスを提供するためのヒントがつまったデータを取得できるようになる。成功するWebサイトを構築・運用するため、制作、開発、マーケティング、運用、営業、など関わる全スタッフが知恵を終結し、力を合わせてコラボレーションしよう。アクセス解析で得られる数字や知見は、部門を超えた共通言語になる。
3. ノウハウは「知る」よりも「実践」を
日本で最大規模のアクセス解析を推進する過程で、世界の最先端企業が集結する場に日本代表として参加し、議論や提案を行った結果、国内で広まっているアクセス解析のノウハウと世界の最先端での実践には、大きな差があることを実感した。最先端のノウハウは世の中に出回ることが少ないのだ。美しい成功事例は、結果論であって、あまり参考にならない。
各種大手ベンダーが公式ブログやホワイトペーパーの形で良い情報を公開することもある。本連載でも、海外ペーパーのホワイトペーパーやブログ記事、カンファレンスでの発表を情報源として手法や考え方を紹介してきた。だが、こういった情報を単に翻訳して紹介するだけでは、あまり実用的なノウハウは共有できない。『国内で実践した体験を踏まえ、日本で応用する際の注意点や補足を追加すれば、ノウハウが広まっていくのではないか』というのが、筆者の意見だ。
こうした考えに基づき、第3回では、ノウハウを独自に展開・応用した別ウィンドウの解析について紹介した。ノウハウに技術力と推進力をプラスしてクリエイティブに実践を積み重ねれば、無料ツールでも同じようなことをある程度実現できるはずだ。
4. 機能ではなく「背景」や「経緯」を理解しよう
ツールの機能や活用方法について調べるうちに、『重要なのはコミュニティとの対話だ』と気づいた。ツールやサービスには、それを利用してきた人や企業のアイデアとニーズが反映されている。ツールがなぜ現在の機能やデザインを持つようになったかを考えると、課題のとらえ方や解決策の考え方が見えてくる。どのような背景や経緯でその機能を実装することになったのか、ベンダーに直接聞いてみよう。その機能をどう使っているのか、どう活用できそうか、他の企業のアクセス解析担当と議論してみよう。