これまでに行けなかった場所を目指す「バスキュール号」
今回のキャンペーンに言及する前に、制作を担当した「バスキュール号」、そして「ソーシャルバナー」について少し触れておこう。
バスキュール号は、2011年5月に設立されたバスキュールとミクシィの合弁会社だ。mixi上のソーシャルグラフを活用したマーケティングサービスの拡大だけでなく、オリジナルメディアの開発・提供、マスメディアとの連携など、新機軸のマーケティングサービス提供を視野に入れている。
数々の広告賞に輝くクリエイティブ業界の雄バスキュールと、国内最大級のSNSを運営するミクシィ。これまでに、多くの案件でタッグを組んできた両社ではあるが、新会社設立に至ったのには“今までにない新しい広告を仕組みから提案・開発していきたい”という思いがあったと、代表取締役を務める朴 正義氏は語る。
「デジタル領域の広告制作においてバスキュールは良い評価はもらっていましたが、ここ数年は、“世間のデジタルコミュニケーションの進化に広告が追いつけていない”という感覚をずっと抱いていました。インターネット利用の増加に比例して、デジタル広告キャンペーンに人々がより積極的に参加するようになっているという様子を感じられなかったのです。特に、モバイルやソーシャルメディアといったパーソナルなメディアが普及するにつれ、利用者の無駄な情報を排除したいという思いはより強くなっていることが予想され、個々人に最適化された広告、さらに言えば、広告を見ても良いと思ってもらえる場所自体を作っていかなければ、自分たちに発展はないという考えを持つようになりました。
つまり、“一つ一つのキャンペーンの前に、多くの人々に受け入れてもらえる広告の場や仕組み自体を作ることに、自分たちのクリエイティブを注ぎ込んでいくぞ”と。そして、その実現には、多くのユーザーを抱える、リアルなソーシャルグラフを持っている企業と組むことが必要だと考えたのです」(朴氏)
TwitterやFacebookなどに、ユーザーベースで他国に劣る日本の小さな制作会社が話を持ちかけても、新しい広告枠を設置するなどの仕様変更は難しい話だ。そうであれば、国内でサービスを展開する企業と一緒に協力して、世界に発信できるような事例を開発していこうというわけだ。一方でミクシィ側でも、よりソーシャライズされたサービスや広告を開発していきたいという思いがあったと、バスキュール号の取締役を兼任するミクシィ メディアビジネス本部ビジネス推進2部長 新田 剛史 氏は振り返る。
「mixiが提供する広告は、常にユーザーにとって、意味のあるものでありたいと考え続けてきました。ソーシャルグラフもmixiではなく、ユーザーが持っているもの。ユーザーが自発的にソーシャルグラフに情報を伝播させてくれるような、mixiでしかできない、楽しい体験をしてもらいたい。“何がソーシャルか”という定義は難しいですが、何かしらのプラグインをサイトに埋め込んだだけで“ソーシャライズした”というのは、本当の意味でソーシャルではないと常々考えていました。思想設計の段階からソーシャルになっていないといけない。根底からこの思いを共有できたのがバスキュールです。世界を驚かせるような“究極の事例”を作りたいという思いが一致しました」(新田氏)
株式会社ミクシィ メディアビジネス本部ビジネス推進2部長 新田 剛史 氏(右)

CTR6倍、クレーム「0件」がソーシャルバナー本格導入のきっかけに
今回のキャンペーンで利用された「ソーシャルバナー」が、初めてmixi上に登場したのもまた、ミクシィとバスキュールというキャスティングで昨年末に実施された「mixi Xmas 2010」の時だった(参考記事:「58時間で100万人が登録したmixi Xmasの裏側― mixiが考えるソーシャルグラフのマーケティング活用」)。
ソーシャルバナーとは、簡単に言ってしまえば、キャンペーンへの参加状況といった友人の行動が、バナー広告内に反映されるもの。mixi Xmas 2010の際は、試験的に24時間限定での実施に留まったが、通常のバナーと比較して6倍以上という高いクリック率となった。この成功が、ソーシャルバナーの本格的な導入に踏み切るきっかけになったと新田氏は語る。

「技術的にはだいぶ前からできるようになっていたのですが、“mixiのユーザーに受け入れてもらえるのか” “思わずクリックしてみたくなるバナーとはどんなものか”など、様々な検討事項があり、なかなかソーシャルバナーの導入に踏み切れませんでした。しかし、mixi Xmasでは効果が実証されただけでなく、クレームが1件もなかった。“本当に楽しい企画であれば、いけるのでは?”と感じ、本格的な商品化につなげることができました。
バイラルを通したリーチの広がりは、インプレッションやCTRといった従来の指標で図ったのでは意味がありません。今まで興味を持っていなかった人にまで広がる、友人の情報を介すことで参加や購買の意向が高くなるなど、総合的な部分で価値があると考えています」(新田氏)
では実際に、バスキュール号の初案件であり、初めてソーシャルバナーが本格的に利用されたキャンペーンでもある「NIKEiD FRIEND STUDIO」では、どのような成果が生まれたのか。内容を追っていこう。