違う山に登らなければ新たな視点は獲得できない
青葉――数学から広告の世界、そしてWebマーケティングの最前線へとさまざまな仕事をされていますが、どのようなマインドで取り組まれているのでしょうか。
本間:僕自身はどちらかというと次々と現れる山にとにかく登って、そこで現れた新たな選択肢から次の道を考えるという仕事の仕方をしてきた印象があります。今の現状のままの方が、安定かつ損がないと見えるかもしれませんがそれは同じ直線上の話です。多少苦労しても、違う山に登ってみなければ違う直線は見えてきません。
それに、ガムシャラにやっていると、助けたいという人が出てきて、違うチームができ、なおかつその人たちが、自分ができなかったことを補ってくれるようになる。自分は結構苦労してると思っていても、違う山に登れるようになるものです。
Web専門の部署を立ち上げたときも、それで一仕事終えた気になって、何となく熱が冷めてしまって。するとある先輩が、「これからはきみが社内のWebマーケティングのスペシャリストになるんだよ」と気づかせてくれました。それで、社内でWebマーケティングに一番詳しい人にならなければと、新たにマーケティングの山に登り始めたわけです。まずは自分でサーバーを立ち上げてサイトを運営してみたり、帰宅しても夜中までコーディングの勉強をしたりしていました。マネジメント側になってからは、専門知識よりもむしろ人をどう巻き込むかという視点が必要になるので、いろいろな立場の人と話して自分にない視点を身につけることが管理職としての勉強になっています。
教科書的なマーケティングは通用しない時代へ
青葉――お話を伺っていると、柔軟な姿勢がとても印象的なのですが、仕事に対するこだわりは何かありますか。
本間:誰もやらないようなことをやろう、というのは自分の中で一つのキーワードにしているかもしれません。これは単純に、すでに誰かがやり尽くした分野で競争しながら一流になろうとするより、自分がパイオニアになれる分野での方が一流になりやすいと思って(笑)。
その一つの背景として、僕は器用な方ではないので、先人がやったことをうまく真似しながら競争に勝っていくことは難しいかなと。自分の進むべき道としては、他の人がやっていない分野で進むべきだなと早くから感じていたところはあります。それに、新しいことに取り組んでいると、同じく新しいモノ好きの人がおもしろそうだと加わってくれるのもありがたかったですね。
青葉――それも、先ほど言われていた「仲間ができる」ということですね。Webの仕事は社内外のさまざまな人と進めることが多いですが、スムースに運べるポイントはあるんでしょうか。
本間:僕は、一緒に仕事をする人たちは、ある意味自分の鏡だと思っているんです。仕上がりが悪かったら、それは自分が的確に説明できていなかったということですし、フォーカスの甘いサイトになるのは目的をきちんと伝えられていなかったから。チーム内やパートナーとの連携がうまくいかないと、つい相手のせいにしたくなりますが、実は原因の半分は自分にあるんですね。
もし、自分がパートナー企業の側だったら、サイトの目的や役割などでモヤモヤした部分がある場合はぜひクライアントに質問してみるといいと思います。質問を受けてクライアントの意向もクリアになり、制作する上での考えも深められて、実りのある仕事になるはずです。
青葉――最後に、本間さんが考える「マーケティング・プロフェッショナル」とは。
本間:これからは、教科書的なマーケティングの知見を持っている人ではなく、今の時代を読んで新しい仮説を立てられる人が求められると思います。かつ、マーケティングによって世の中に貢献したいという意識を持てる人。特にWebマーケティングにはたくさんの手法があって、それらを積み重ねて成果を上げていくゲームのような側面もありますが、その先には誰かがまだ知らなかった商品の良さを知ったり、目的の商品をうまく探せるようになったりと、人の役に立つシーンが必ずあります。どんな仕事に対しても、社会におけるその仕事の意義を意識して取り組んでいきたいですね。(文・高島知子)
花王といえば、日本はもちろん、アジアにも生活必需品を供給するメーカーとして、ライフスタイルに合わせた商品や高付加価値商品の開発など、世界的な原材料価格の上昇、国内トイレタリー市場のデフレ化、国内化粧品市場の縮小などを背景にしながら、果敢にさまざまな取り組みを行っています。本間さんへの取材内容は多岐に渡り、学生時代の話から、企業文化、市場の成熟化、消費者の低価格志向の話まで及びました。最終購買地点である店頭で、「自社の製品の魅力をきちんと説明したい」とおっしゃっている本間さんの姿に、「よきモノづくり」の姿勢で作られる商品への自信、コミュニケーションを大切にしているマーケティング企業として、お客様へ商品の説明さえできればお使いになっていただけるという信念を感じました。
