事例コンテンツを考える
事例コンテンツはBtoBの企業ならまっさきに検討するコンテンツのひとつだろう。企業の人材研修などを扱うF社もまたそうであった。
F社では今まで「事例」が重要だとわかっていたものの、なかなか本格的に手をつけることができなかった。いざコンテンツ化しようとしても「競合他社からの営業対象になるのではないか」、「大企業からOKを取るのはなかなか難しい」などという営業担当の声もありWebサイトでの事例公開には至らないという過去があった。
しかし、Webサイトのリニューアルのプロジェクトに際して『問合せの質』を高めるためには事例コンテンツが不可欠であろうということで、事例情報を大幅にブラッシュアップして掲載することになった。もともと実績の多かったF社。いざやると決まってからは話が早かった。
まずは、営業担当を含めたミーティングで事例の選定に入る。年間200を超える事例から、最も良い事例を選び、営業担当から各社に掲載の許可取りのアプローチを行った。研修の評判も高かったため、事例掲載への許可取りは順調に進む。すぐに5社の有力事例が掲載できることが決まった。
これは、今まで改めて事例掲載をお願いしたことがなかったF社にとっては、非常に素晴らしい発見だった。お願いをする前からだめだと思い込んでいたが、普段のサービス提供の満足度が高ければ事例は掲載できる。そう確信できた。
結果、どの企業も誰もが聞いたことのある優良企業をそろえることができた。さらにすべてロゴ掲載の許可も取ることができ、万全の状態でコンテンツがそろった。Webサイトのデザインも決まり、輝かしい事例に囲まれた素晴らしいWebサイトを公開することができた。
事例から何が伝わるのか
しかしながら、リニューアルした直後から問合せは減ってしまった。担当者は困惑してしまうこととなる。一般的に、事例情報はBtoBの中でも非常に重要度の高い情報だ。重要度の高い情報を掲載したのにも関わらず、問合せが減ってしまったのだ。
そこで、問合せ内容の内訳の分析を改めて行った。今までの問合せは月10件程度だ。10件の内訳は、7件程度が中堅企業。誰もが知っているような企業ではないが、研修サービスへの受注率も比較的よく、大型受注にはなっていないがコンスタントに売上を支えてくれている。
内訳の1件は、大企業。もっとも重要視しているターゲットで、受注率は低いが、受注になった場合、長期契約になるケースが多く、自社を中長期的に発展させるに当たって必要不可欠な存在である。残り2件は、営業対象にならない小企業だ。
リニューアル後の問合せは月5件程度、つまり問合せが半減してしまった。内訳は月2件が大企業、残り月3件が中堅企業となっていた。
もともとの目標であった「問合せの質を高める」という点では、大企業からの問合せが月1件から月2件に増えたため多少の成果はあった。しかし、問合せのボリュームを稼いでいた中堅企業からの問合せが半減し、結果として大きな問合せ減となってしまっていたのだ。
さらなる要因の分析のため、クライアントの視点から意見をもらおうと担当者が仲の良いクライアントにも見てもらった。すると、「きれいで素晴らしいサイトだが、ほとんど大企業しか相手にしないような企業に見えてしまっている」とのことだった。
改めてウェブサイトを見直してみれば、確かに大企業の輝かしい事例ばかりが並んでいる。気合を入れて大企業を並べてしまったことで、顧客に対して「大企業のみがターゲットで、中堅・中小にはサービスをやっていない」という誤解を与えてしまったかもしれない。
あるいは「高額なコンサルティングサービスばかりをやっている印象」を与えてしまったかもしれない。最高の事例を出そうとしたことが、返って誤解や逆効果を生んでしまったのだ。
事例はどの企業もまっさきに検討するコンテンツのひとつだろう。しかし、事例はあればいよいというわけではない。どんな文脈で事例からのメッセージが伝わるかが重要なのだ。