コミュニケーションって何だ?
前回の復習になりますが、戦略とは何だろうか、という質問を自問自答してみましょう。答えは「戦略方程式」の中に隠されているので、もう一度振り返ってみましょう。戦略方程式は、「しかるべきターゲットに対して、こちらが意図する行動をとってもらうことで、目的が達成されるという基本骨格を表している」とご案内しました。この方程式が示唆していることとは、戦略とは「人に何かをさせること」だということです。
単純ですが、この考え方がどんなアイディアにも対応できるフレキシブルな基本スタンスなのです。野球の選手が、バッターボックスの中で構えるスタンスは、オープン、クローズ、スクエアと見かけの違いはあれども、一番バットが自由に操ることができるものこそが良いとされています。プランニングも同様で、発想というバットコントロールを自在にできる、オープンマインドなスタンスが重要なのです。しかしプロ野球選手でもバットコントロールを自在に操ることができる選手は一部のトップ選手に限られるように、ビジネスでコミュニケーションを駆使している人もそう多くはないのではとさえ思われます。
さて、戦略を左右する因子に着目してみましょう。皆さんご存知のマーケティングの4Pに代表されるProduct、Place、Price、Promotionが列挙できますし、そういう角度から考えること自体は全く間違いない正しいアプローチです。しかし、視点を変えて、「人が何かを行動する」ということは、ある「作用」の反作用であると考えてみたらどうでしょうか? 人が行動をするプロセスの中には、それが衝動的な行動であろうとなかろうと、何らかの情報を受け取って、咀嚼(そしゃく)して、総合的に判断した結果であるといういくつかの一連の流れを垣間見ることができます。
このプロセスの最初のステップにこそ、人に行動を引き起こすために「作用」する力が内包されていると言えるでしょう。究極的に捉えるならば、ヒトの五感を通して(広義の)情報を与え、理性に訴えたり感情に訴えたりして、(動機付けをするための)説得プロセスと考えることができます。それが、私たちが「コミュニケーション」と呼んでいるものなのです。ここで言うところの情報とは、文字・音声・映像、さらには色や香り・匂いや雰囲気など、人にとって刺激となり得る、メッセージとなり得るあらゆる概念として、広く捉えています。
人に行動を引き起こす例として、ある人に「目的地に歩いて行く」ように仕向けるように説得することを考えてみましょう。
アプローチAは、電車の便が悪いところに行く際に、交通渋滞が想定されるときに有効そうです。
アプローチA:「予定時刻に確実に到着できるよう、歩きませんか」
梅雨の時期のちょっとした晴れの日に、時間的にも余裕があれば、アプローチBも考えられます。
アプローチB:「せっかくですので、気分転換に歩きませんか。」
さらにアプローチCでは、社会性に訴えてみました。
アプローチC:「エコロジーを考えて、歩きませんか。」
実に、いろいろなアプローチが考えられます。前述のように、コミュニケーションとは、口頭による説得だけではありません。最近、メタボリック予防が話題ですが、次のようなアプローチも、あるメッセージを届けられる手法という観点から、コミュニケーションとみなすことができるのです。
アプローチD:大きな姿見の鏡を化粧室に設置する(自分の体を動かす必要性を感じさせる)
マーケティング目的とコミュニケーション目的の違い
では、ビジネスの世界の話に移りましょう。ここまでは戦略や目的をひとくくりに、その概念をご案内してきましたが、実際にはビジネス上達成したい戦略を「マーケティング戦略」、そしてその目的を「マーケティング目的」と呼び、さらにマーケティング戦略を実現するために、コミュニケーションによって達成しようとする戦略を「コミュニケーション戦略」、その目的を「コミュニケーション目的」として分けて考えます。
ここで重要なのは、マーケティング目的とコミュニケーション目的の違いです。コミュニケーション目的は、あくまでもコミュニケーションというソリューション(=手法)を用いて、マーケティング目的の実現に近づくことのできる概念を設定するのです。例えば、○×商会というインターネットの贈答用花卉通販会社の場合、こんなふうに考えることができます。
マーケティング目的 : インターネットでの贈答用花卉の通販で、年商3,000万円を目指す
コミュニケーション目的 : 「贈答=フラワー=○×商会」という連想をつくりだす
もう皆さんはおわかりだと思いますが、ビジネス上のコミュニケーションの手法として広告・イベント・販促ツールなどを駆使して、このコミュニケーション目的の実現をめざしているのです。