大切なのは顧客との「対話」
ブランク氏はこのストーリーを紹介しながら、しきりに「dialogue(対話)」という言葉を使っていた。「売り込みはしないこと。大切なのはあくまでも一人の人との対話を繰り返してリレーションシップを強めていくことです。ともすると私たちは売り手側の視点でコミュニケーションをデザインしてしまう」と主張。そして、メリッサとJAXON'Sとの関係について、次のように説明した。
「メリッサにとってrelevantな(関係のある・意味のある)コンテンツが、Eメールやディスプレイ広告などあらゆるチャネルで届けられました。PC、モバイル、タブレットそして店頭も含めた彼女の望む全てのタッチポイントで。つまり、JAXON’Sは、彼女と対話を行っていたのです。その結果、彼女は気に入ってくれて、そして友達にも紹介してくれる。このように、顧客を理解して心地よい対話を持つことができれば、顧客があなたのためにマーケティングをしてくれる。今はそんな時代なのです」
デジタル技術を駆使して顧客との「対話」を実現する
これが、「Relationship First」という言葉で表現された「New School Marketing」の具体的なイメージだ。
一つひとつのコミュニケーションに、驚くような仕掛けはないように見える。メリッサから見るとちょっと気の利いたコミュニケーションをしてくれるブランド、という程度かもしれない。しかしなぜかJAXON’Sからのコミュニケーションは、メリッサにとって心地良い。なぜか、自分の好きなテイストで自分のワードローブにも合う商品が多い。
その心地よさを実現するために、JAXON’Sはメリッサにとって最適なタイミングで気に入ってもらえる情報が届けられるように、全てのデータを分析し、全てのタッチポイントで一貫した顧客体験ができるよう全体を設計している。
対話はあくまでも相手を一人の個人として理解し、相手に合わせたコミュニケーションをするところから始まる。少しでもメリッサが嫌な思いをしたり、関心のない商品ばかり繰り返し見せたらこのコミュニケーションは成功しないのだ。そのため、別な顧客には当然メリッサとは違うストーリーが用意されることになる。
実は、ここで紹介されているのは、CRMのコンセプトで20年前から語られていたストーリーである。
その当時は夢物語だったが、膨大なデータの取得と処理を安価で可能にしたITの進化とインターネットによるコミュニケーションのリアルタイム化、そして顧客のエンゲージメントが新たな顧客の獲得につながるソーシャルメディアの浸透が、そのストーリーを現実的なものにしつつある。