ステップ1. ユーザー行動を観察する
それでは6つのステップの作業について順をおって紹介していきましょう。最初の作業は、ターゲットとするセグメントのユーザーの利用時の行動やその背後にひそむユーザーのニーズを把握するための調査を行うことです。
このステップで、コンテキスチュアル・インクワイアリーという行動の観察を重視した調査法を用いるのには理由があります。日常という舞台装置の中で日々あたりまえのように生活している人間は、使いづらいものにも適応し、目の前にあるものだけを使って暮らすことに慣れてしまっており、それ以外の世界を想像するのはそれほど得意とはしていません。しかし、日常という舞台装置を客観視して観察すれば、ユーザーの行動の背後にはすでにユーザー自身は慣れて気づかなくなった「使いづらさ」や「非効率なプロセス」が隠れているのです。観察を重視するコンテキスチュアル・インクワイアリー調査では、調査をする側がユーザーの行動を観察する中で、ユーザーの行動の意味と背後に隠れた潜在的なニーズを発見していくのです。

調査は基本的に以下のようなフローで実施します。
- 調査設計を行う:調査の目的とユーザーセグメントの明確化、調査対象ユーザーセグメントの決定、調査日時の決定
- 調査対象ユーザーのリクルート:スクリーナ設計、スクリーニング実施、調査対象者決定
- 実査:会場および小道具の準備、実査
実査では、ユーザーに普段行っている仕事、利用方法を実際に見せてもらいながら、観察者がその行動を仔細に観察します。観察者はユーザーに弟子入りしたつもりでユーザーの行動を観察し、わからない点は根掘り葉掘りタスク実行中に質問していきます。師匠の経験を弟子に伝承するイメージです。このようにユーザーに普段の利用状況を再現してもらう中で、観察者はユーザーがどんな目的をもってどのように利用しているかを把握していくのです。
ステップ2. ユーザーごとの行動シナリオを描く
ステップ2では、観察と質問により把握した各ユーザーの行動をシナリオとして描きます。ユーザーの生の話は情報が乱雑なので、人間中心設計に関わるデザインチーム間で共有するためには調査データの整理が必要になるからです。物語風のシナリオとして書く利点は、コンテキストが再現でき、「誰が」「何を」「どうした」といった状況を厳密に描写できる点です。これにより調査に立ち会わなかった関係者全員がユーザーの行動を生き生きとした情報として理解・利用できるようになります。
分析はあくまで次のステップの作業になりますので、ここではせっかく集めた生の行動データを記録することに注力することが大事です。
