基本となるデータはすべて自社内にある
H社でも、3か月間の過去の履歴を振り返り自社の状況を整理してもらった。3か月だと、まだ商談中のものが3割程度ある。そこで、見込み中の案件は省き、受注、失注など結果がでている7割の案件に絞って、いくつかの評価を行なった。
コンバージョン獲得あたりのコスト
まずは1コンバージョン獲得あたりのコストについての評価を行った。通常のWebサイトでは、運用コストが月2~3万円程度。リニューアルにかかったコストを将来の2年分に分散して見込んだ場合、1件あたりの獲得コストは3,000円を切る費用だった。一方、リスティング経由の1件あたりの獲得コストが30,000円程度だったというのは前述の通りだ。
コンバージョンあたりの平均受注期待額
さらに、リード獲得からの受注率/受注額を計算した。提案率は50%を超え、リード獲得あたりの受注率も30%と高かった。受注総額から逆算すると1件リード獲得あたりの平均期待受注が8万円。広告費を10%まで使ってよいとすれば8,000円まではリード獲得に使うことができることになる。
リスティングでは総合的に見て1件あたりの獲得単価は30,000円、キーワードによっては9,000円~14,000円で成果につながっている広告もある。
しかし、どんなに成果につながっているキーワードでも8,000円/1件を下回らないため、リスティングは継続しないという結果となった。リニューアルによる評価は8,000円をはるかに下回る3,000円でのリード獲得が実現できていることから、成功だという判断になった。
案件単体で営業評価をするならば上記のような結果であろう。しかし、もし、業界が異なり、1つの案件がたくさんの案件をいもづる式に生み出す可能性のあるような商材であれば、もっと大きな顧客生涯価値を期待でき、1件あたりの獲得コストがさらに大きくても許容できるはずだ。このように自社内の状況がしっかりと把握できれば、他社の情報がなくとも充分な意思決定はできるのだ。
根本は自社の営業構造やコスト構造の理解から
BtoBのWebマーケティングの分析難しいといっているが、基本的には自社内のデータでほとんどが意思決定できる。分析は難しいがデータの所在は自社内だ。根気よく知恵を絞り続ければ、必ずヒントとなる数値を得ることができる。
別の言い方をすれば、自社の営業構造やコスト構造を理解していなければ、的確な分析をすることはできないということだ。自社内のデータを知り尽くすことで、どの程度のリードを獲得すれば、どのくらいの確率で、どのくらいの受注を生み出すことができるのか、論理的な推算ができるようになる。
もし、すぐにデータが揃わないのであれば、ある程度の目星をつけておくべきだろう。いくつかの参考となる数字を示しておきたい。
営業データをすべて把握するのは望ましいことだが、そこまでできない場合も多い。そういう時は、1コンバージョンあたりの獲得単価を算出するにあたり、下記のように試算をして目安を立てるとよい。
受注額から広告費として使ってよいとおもう金額の割合(仮に7%)×リード獲得からの受注率(30%)を掛け合わせて、約2%を1コンバージョン獲得あたりのコストのボーダーラインとして設定する。そうすれば、商談あたりの平均受注額さえわかれば推算できる。
例えば、平均受注額が100万円であれば1リード獲得単価2万円がボーダーラインだ。あとから、推算で設定した数値とどの程度差があったのか、検証するほうがアクションにスピード感がでてくるであろう。
さらに、リードタイムをどこで切るべきかという点についても、リードタイムは「通常のWeb問合せであれば3か月以内」「メールマーケティングやリードナーチャリングによる掘り起こしであれば1年以内」でひとまず区切るとよい。
その際、未決案件は総数に含まないで分析し、次の期限に持ち越す際に、新規として扱うか、無かったものとするかを判断していく。これでデータの期間にも一定の目安を立てることができる。その上で、分析に無理が出そうであれば適宜調整すればよい。
データが取得しやすいからこそ嵌る落とし穴
さらに、KPIに成りうる数値を【図2】に示した。自社で実施しているWebマーケティングの施策において、変動を評価すべき数値があればモニタリングする数値として定点観測をおこなうとよいだろう。
Webマーケティングはデータが取得しやすい。だからこそ、データに惑わされやすいという側面がある。本当に意思決定に役に立つ分析にするために、目先のページビュー数や訪問者数に気を取られすぎてはならない。
紹介したKPIも多くしすぎずに、可能な限り予算や企画に関わる人すべてが理解しやすい経営データ(売上や費用)に直接的にインパクトのある数値を共通言語にしていくことが重要だ。そのためにも意思決定につながる分析の答えとなるデータは、必ず社内にあることをぜひ覚えておいていただきたい。