単純なレコメンデーションでは購買に結び付かない
――2012年夏から、良品計画ではメール会員との関係強化を図るため、メールマーケティングの取組みをスタートしました。まずはその背景から伺えますか。
奥谷:私はいま、オンラインストアの管理からCRMの推進まで、オンライン上の施策全般を管轄しています。主なミッションは日本のオンラインストアの売上向上、そしてお客さまとの絆作りです。そのために行った施策のひとつが、メール会員との関係強化でした。
良品計画は150万人のメール会員を有しており、店舗情報やコラムなどのメールを週3回配信しています。オンラインストアの商品も紹介していますが、全員に同じ内容をお送りしていたのを、一人ひとりの嗜好に合わせたいと思っていました。オンラインストアの売上の3割はメールからの流入なので、購入率の向上が売上増につながると考えました。
――月曜に配信されるメールの商品レコメンデーションをALBERTが担っているということですが、両社はどのように連携しながら作業を進めているのでしょうか。
平原:まず、最初にお断りしておきたいのですが、われわれとしては「レコメンデーションメール」ではなく「One to Oneメール」という言葉を使いたいと思っています。顧客の属性にもとづく商品の推薦ではなく、よりきめ細やかな、お客さまが将来とりうる行動を予測して商品を提案していきたいと思っているからです。
プロジェクトのスタートとして、まず行ったのが顧客分析でした。顧客をクラスターに分け、特徴に合わせて必要と思われるメールをお送りしました。お薦め商品も顧客ごとに変え、購入率アップを図りましたが……。
奥谷:……結果が出なかった(笑)
平原:最初の3回は効果が見えませんでした。成果として明確にあらわれたのは、2か月後くらいでしたか。
奥谷:そうですね。でも2か月の試行錯誤が、当社に大きな気づきをもたらしてくれたのも事実です。「ペルソナが移行する」ということが分かりました。これまでは、家具を買った方には、別の家具を推奨していました。机を買った人には椅子のように。でもよく考えたら、家のスペースなんて限りがあるわけで、家具ばかり推奨されても購入できないんですね。
――「ペルソナが動く」というのを、もう少し分かりやすく説明していただけますか?
平原:つまり、閲覧や購買といったアクションを起こすたびに、お客様の必要とする情報はどんどん変わっていくということです。One To Oneマーケティングを実現するには、それに合わせて企業側から発信する情報を変え続ける仕組みが必要です。画一的なクラスタリングではうまくいきません。
無印良品特有の傾向も見つかりました。たとえば他社ストアでは、「XLの洋服を買った人には、別のXLの服を薦める」というシンプルな手法でも比較的購買につながります。しかし、無印良品の場合は同一カテゴリーでのクロスセルよりも、複数カテゴリーに渡ってご購入頂いたほうが、ライフタイムバリューの向上につながることが分かりました。
奥谷:目標にしていた購入率も配信6回目くらいから安定しはじめましたね。13回目からは目標値を超え続けています。
購入率だけでなく客単価もアップ! 伴走型の業務スタイルが功を奏した
奥谷:想定していなかった成果も出ました。購入率だけでなく、客単価も上がりました。2010年に比べて約16%も向上しました。なぜかと思ったら、RFM分析で、顧客ランクがアップした人が18%もいたんですね。下がった人が11%だから、全体で7%は上がった計算になります。
平原:「リピート購入」の考え方を変えたのが良かったのでしょう。これまで一度購入した商品は推奨していませんでしたが、特定の商品をリピート購入する人が意外に多いことが分かりました。
奥谷:猫草とかね。「猫草クラスター」と呼んでいるのですが(笑)、そんな商品を継続購入されている方がいるとは、知りませんでしたよ。この数か月で多くの気づきを得ることができたのは、ALBERTの技術のみならず「伴走型」の業務スタイルによるものでは、とも感じています。
――「伴走型」つまりパートナーとして一緒に走り続けるということでしょうか?
奥谷:マーケティングは、仮説検証を経ないと結果にたどり着きません。データを持ち帰り、分析したものを納品する「納品型業務」ではなく、「伴走型」の業務スタイルでないとPDCAが回らないんです。ALBERTの担当の方とは週に一度打ち合わせをしているのですが、隔週で新たな仮説を提案してもらいました。
ビッグデータの時代に入り、今後のマーケティングにはデータ分析が必要不可欠になります。私も含めてマーケターはITに明るくない人が多いのですが、そこは経験を通じて学ぶ必要がある。ALBERTとの打ち合わせのおかげで、私たちも、直感ではなく定量的に議論できるようになりました。
平原:ありがとうございます。当社の仮説を、スピード感をもって実行して下さったので助かりました。
奥谷:ALBERTの技術やサービスは、「メールマーケティング」の部類に入るのかもしれません。でも、欲しい商品を察してご紹介するという行為は、お客さまとの関係性をつくる行為に他ならない。私はメールマーケではなく、CRMのあるべき姿を学ばせてもらったと思っています。
「フロー」のデータを「ストック」に変える
――今後は、両社でどのような取り組みを行っていくのでしょうか。
奥谷:ビッグデータの分析も視野に入れようかと考えています。たとえば弊社には、「持ち運びできるあかり」という商品があります。充電器から持ち上げるとあかりが灯るという商品ですが、サイトに寄せられたコメントから察するに、女性が買ってお子さんの枕元でご利用いただいているシーンが見えてきました。いわゆる、テキストマイニングですね。
平原:オンライン上のコメントやつぶやきまで分析すると、新たな打ち手も見えてきますね。
奥谷:でも、むやみに着手しても情報に埋もれるだけです。まず何を分析したいのかを明確にすること、ソーシャルメディア等で流れる「フロー」のデータを「ストック」に変えることが重要だと感じています。
たとえば、商品について口コミができる「My MUJI」では、口コミをした方に「MUJIコイン」を差し上げています。コインはソーシャルゲームで使えるので、顧客データが溜まります。ツイッターのようにさらさらと流れていく「フロー」データではなく、ゲームコーナーのような「池」をつくることで、ストック型のデータを溜めていく。これがビッグデータ分析への第一歩だと考えています。
平原:当社では、リアル店舗の購買データ分析にも力を入れています。今後はリアルではどのような購買がなされているのか、そこにオンラインとの違いはあるのかを知り、さらにお役に立てれば嬉しいです。
CRMのテクノロジーは着実に「顧客」へと近づきつつある
データマイニングを強みとするALBERTは「ビッグデータ時代のCRMソリューション」として「smarticA!」をリリースした。One to Oneマーケティングの実現に向けて、同社はCRMをどのように進化させようとしているのか。ALBERT代表取締役の上村崇氏に話を伺った。
――良品計画をはじめとする先進的な企業のマーケティングを支援するなかで、国内のCRM活用は現在どのようなフェーズにあるとお考えでしょうか。
上村:今までのマーケティングは新しくお客さまを獲得するところに注目が集まっていましたが、これからはお客さまとコミュニケーションしながら、ひとりひとりのLTV(Life Time Value)を上げていく、一人のお客さまからの収益を最大化していくためのマーケティングが注目されると考えています。
こちらの図は、ALBERTが取り組んでいるCRMのビジネスマップです。左側に購買データやウェブのログデータを蓄積するデータウェアハウス(DWH)があります。ここにビッグデータが溜まったら、データを解析してCRMの打ち手に活用していく段階になります。そこで必要なのが、データマイニングエンジン(統計解析)と、キャンペーンマネジメント(コンタクトポイント最適化)で、このふたつは切っても切れない関係にあります。
図の一番右側に「顧客」とありますが、現在そこへ向かってCRMのテクノロジーが近づいています。溜まったデータをデータマイニングエンジンで解析し、それをキャンペーンマネジメントシステムで、どのコンタクトポイントを通じて誰にどんな情報を届けるかを制御するようになってきています。無印良品が取り組んでいるOne to Oneマーケティングを実現するために、ALBERTはこの分野のシステムの独自開発に注力しています。
顧客特性に合わせ、メール等を通じて顧客にアプローチをするのが「キャンペーンマネジメント」という機能だ。「週末に買い物をする人には金曜にメールを配信」「新規会員には初期購入キャンペーンを案内」など、ユーザーの状態に合わせ、適切なタイミングで適切な対応をする。顧客へのアプローチ手法は、メールのみならずWebやプリントメディアでも応用が利くため、「マルチチャネル時代のOne to One ソリューション」と上村氏は称する。
国産CRMで、今年こそビッグデータ活用元年に
今年を「ビッグデータ活用元年」と位置付ける上村氏。その新しい幕開けに合わせ、同社がリリースしたのが独自開発のCRMソリューション「smarticA!」だ。国産CRMとしての優位性について次のように語る。
上村:ご存知のように他社も、「smarticA!」のようなソリューションをリリースしています。なかでも大きな勢力になっているのが海外製品です。しかし海外の商習慣に合わせて作られているため、日本のユーザーに合わせた対応をするにはカスタマイズが必要です。また導入時には、インハウス型のソリューションは数千万単位の費用が、オールインワン型のサービスは周辺システムのリプレイスが必要になり、どうしても敷居が高くなります。
「smarticA! キャンペーンマネジメント」と「smarticA! データマイニングエンジン」はALBERTが日本の商習慣に合わせて独自開発したもの。加えて、クラウド型サービスなのでコストも抑えられる。機能やサービスも必要に応じて選択することができるので、導入を検討している企業の担当者の方はまずは必要なところから試していただきたいと思っています。
「ビッグデータ」は流行語に過ぎないと言われることもある。しかし、活用するための道具が揃ったいま、溜まりに溜まった「データの塊」は「宝の山」に変わるかもしれない。上村氏の言うとおり、今年こそ「元年」となる兆しはすでに見えつつあるようだ。
分析力をコアとする情報最適化企業ALBERT(アルベルト)は、ITの活用による情報の最適化で、意思決定と問題解決を支援します。One to One マーケティングを支援するCRMソリューション「smarticA!」を含む多様なソリューションについて、さらに知りたい方はこちらへどうぞ。
ALBERTサイト:http://www.albert2005.co.jp/ 直通電話:03-5333-3747