聞かなくてもデータが集まってくる時代に
IT化の進展によっても、これまでのアンケートやインタビューという手法の限界が見えてきましたし、一方で新たなマーケティングリサーチの可能性が生まれています。
まず、こちらから聞かなくてもデータが集まる、それも記憶に頼った誤りを含んだデータではなく、事実としてのデータを集めることができる状況が進んでいます。POSデータの収集やカードを使った購買履歴の収集、ブログやtwitterのデータの収集などが、これに当たります。ビッグデータという言葉で言われていますが、リサーチニーズの第1段階である市場把握や第2段階の消費者理解のためには、アンケートやインタビューを行わなくても、ある程度のデータを集めることができる状況になっています。さらに、オンラインが中心のサービス(通販やゲーム、コミュニティなど)では、その仕組みを使って実験的なリサーチをすることも可能で、第3段階の検証をリアルタイムに行い、スピーディにPDCAサイクルを回すこともできるようになってきました。
リサーチにおけるモバイルの革新性
モバイル化の進展もリサーチに大きな影響を与えます。単純なところでいうと、リサーチを行うメディアとして、いまはパソコンが主流になっていますが、それでいいのかという問題があります。若い世代では、パソコンを使うよりもスマートフォンを使うことが多いといいますから、パソコンにだけ頼っていると若者の実態を把握することが難しくなります。
さらに重要なのは、モバイル端末は常に身に着けているメディアなので、何かの行動を起こしたその時にデータを取得することができるということです。つまり記憶に頼ったものではない「その瞬間」の実態を知ることが可能なメディアだということです。これまでのアンケートやインタビューが抱えていた限界、つまり記憶に頼ることによるあいまいさや錯誤という課題をクリアする可能性が見えてきたといえます。
統計調査理論を超えるソーシャルの世界
そして、人々が繋がるソーシャル化も、マーケティングリサーチに根本的な発想の転換を求めます。もともとマーケティングリサーチは、統計調査の理論がベースとなっています。調査の対象となる人や物は独立に選ばれ、お互いに影響を与えない、という前提があります。
たしかに、実際に行われた事実(知っている、買った、使ったなど)を調べるには、他人に影響されずに答えてもらうことが大切です。しかし、意識や意見を確認する場合はどうでしょうか。現実の世界では、これまでのようなオフラインでのコミュニケーションはもちろん、アマゾンや価格.comなどでの書き込みを見たり、ソーシャルメディアでのやり取りを通じて、商品やサービスの購入を決めたり、見送ったりしているのではないでしょうか。となると、アンケートのように、何の情報もなく、自身の気持ちだけによる回答に、どれだけの意味があるでしょう。
たしかにこれまでも他の人の意見を参考にすることはありましたが、その範囲は実際に接する人かマスコミの情報に限られていました。しかしいまでは、ソーシャルメディアによって、その影響範囲は格段に広がりましたし、同時に深まりました。実際に商品が発売され、ネット上の意見を見て、オンラインやオフラインでいろいろな人のお勧めや評価をみれば、当然、自分の評価が変わってきて当たり前です。以前答えたアンケートへの回答と態度が変わっても仕方がありません。このように考えると、積極的に人々のコミュニケーションを活用したリサーチが必要なのではないかと思い至ります。
IT化がもたらす課題と可能性
マーケティングリサーチを取り巻く環境がどんどん変化する中で、求められる役割は変化し、これまでの中心的な手法であったアンケートやインタビューが抱える課題は深刻化しています。一方で、多くの人が指摘するように、IT化によるリサーチの可能性が広がっています。このような中で、マーケティングリサーチという言葉が示すものや、その手法は明らかに拡張しています。
次回は、いま、どのようにマーケティングリサーチを捉えるのかについて、手法の拡張を軸に考えていきたいと思います。