目的を明確にすれば、利用すべきテクノロジーが選択できる
── オウンドメディアマーケティングを推進するには、テクノロジーの活用も不可欠だと思います。サイト解析ツールはどのような運用を行なっていらっしゃいますか。
現在、弊社ではサイトカタリストを導入しておりまして社内で60ID発行しております。計測に関しては、できる限りそのコンテンツやキャンペーンに関わっていない部署や人に計測・分析をお願いして、第三者としてフラットな分析ができるように心がけております。組織として俯瞰にデータを分析することが重要だと感じておりまして、現在そのためのKPIや分析方法を社内で議論している最中です。
── アドテクノロジーについてはいかがでしょうか。特に第三者配信やDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)についてはどのような対応をされていますか。
第三者配信は、さまざまな領域をつなげて把握できること点が魅力で、そこから得られる知見が何かあるのではないかと感じています。昨年末より取り組みをはじめており、今後データが溜まってきた段階でその分析をしていきたいと思います。
── メールマーケティング戦略についても教えてください。メールマーケティングが効きづらくなってきたと昨今言われております。御社ではどのようにお感じですか。
メールマガジンでの新しい取り組みは、サイトカタリストのデータを利用したメール配信です。例えば、これまでは夏旅行のメール配信をする場合、過去のコンバージョン履歴を抽出して配信しておりましたが、サイトカタリストと連携させることで6月のボーナスシーズンに北海道の旅行ページを見ていたユーザーに夏旅行のメールを配信するなどを実施しました。その時期に旅行ニーズの高いお客様にメール配信を行った結果、コンバージョン数を高めることができました。
過去のコンバージョン履歴からのメール配信よりも、対象時期のサイト回遊履歴からターゲティングメールをすることで数倍の効果を得られる商品もあります。サイトカタリストのローデータと会員データが紐づいているため、お客様の行動履歴をリアルタイムに捉えたメール配信が可能ですので、今後もこういった取り組みを増やしていきたいと考えております。
── 最後に第三者配信を含めて、デジタルツールの導入を考えている方々へアドバイスをいただけますか。
どの技術を採用するのかを決める際に、まずどのようなローデータが取得可能か事前に理解し、取得目的・将来的な利用方法を明確にした上で選ぶことが重要だと思います。流行っているからといって導入するのは危険です。コストがかかりますし、将来的に継続して同じツールを利用していくことが難しくなることも考えられます。
特別寄稿:コンサルタントの眼
2011年度に4,300億円もの販売額を達成した巨大Webサイト『ANA SKY WEB』。15年の歳月を経て進化した同サイトには、常に最新のテクノロジーが導入されているが、すべての機能は顧客が航空券を購入することを目的に実装されている。
一般に、マーケットに対するアクションをマーケティングと呼ぶが、同社のWebマーケティングは市場に目がけたアクションというよりも、顧客がWebというチャネル上に求めることに応えるための活動のように思う。例えば「スマホユーザー」にリーチする場合、スマホのマーケットに石を投じるというよりは、顧客が使っているデバイスがスマホだから、その利便性を追求する。そんな発想から構築される “スマホファースト”のモバイル戦略は、PCサイトでのリーチが難しかった当日の空港情報サポートに意識が向けられている。
iPhone5の発売、iOS6のリリースと同時に公開されたPASSBOOKを1か月半でサービスに導入してみせたのも、「Androidユーザーに提供しているサービスをiPhoneユーザーにも提供すべき」という徹底したカスタマーファーストの発想がなければ実現しなかったことだろう。
対応組織の運営方針も明確だ。サイト開設当初は数名だった担当をWebの売上シェアが全体の3割を超えたところでWEB販売部とし、売上シェアが7割を超える現在はソーシャルとマスメディアの活動も担う部署へと進化させた。国内の航空会社としては最多の「いいね」を集めるソーシャルサイトは「リスクを認識しつつも、始めないことにはノウハウが得られない」とのマインドで始められており、そこに大企業にありがちなイノベーションのジレンマはない。ジレンマどころか、高速かつ緻密なPDCAサイクルにより、効果はますます増大している。
世の中にあふれるテクノロジーを、提供者の論理ではなく、徹底した調査とサービス化によって顧客へのバリューに変えていくANA。他社が一朝一夕には真似することのできないWebマーケティングの王道を、彼らは歩み続ける。
