視点その2: 「個人/独立性」-「ネットワーク/関係性」
つぎの「個人/独立性」-「ネットワーク/関係性」という視点は、これまでのリサーチにはありませんでした。そもそもリサーチの基本はデータの独立性にあるので、対極にある関係性などは邪道ということになります。しかし前回示したITの進化によりもたらされたネットワーク化やソーシャル化を踏まえると、この視点が重要になってきます。
個人/独立性
「個人/独立性」は、従来のマーケティングリサーチが理論的基盤としてきた考え方である、データの独立性を重視しようという立場ですので、あまり説明を必要としないでしょう。行動や実態を把握しようとする場合、他人の視線や意見に影響されることを避けるためにも、ひとりで回答してもらうことが重要になります。個人の、独立した状況での回答やデータを得ようというものです。
ネットワーク/関係性
「ネットワーク/関係性」は、ネットワークで繋がり、そこで社会的なやりとりが行われている現状を反映して、それをリサーチに取り入れようという立場です。とくに評価や意識などを探る場合は、積極的に他者と関わりながら得た気づきや思い出したことを回答として得る方が有効な場合が多いように思います。また、個人が関係性の中で、ある考えに至る過程自体も重要な情報となります。
実は、グループインタビューでのグループ・ダイナミズムの活用は、この立場と同様の考え方ともいえます。さきほど、「これまではなかった視点」としましたが、あまり活用されなかったというのが正確です。日本人は見知らぬ人と面と向かって意見交換を行う習慣があまりなく、グループインタビューの場で参加者が相互に意見を言い合うのは、なかなかむずかしかったという背景もあります。しかし、ネット上での同じ興味関心を持つグループでは、積極的な交流が行われるようになりました。このような背景もあり、「ネットワーク/関係性」を活用できる状況になったともいえます。
これまで主流だった3つの調査手法
これまで確認してきた構成的-非構成的と「個人/独立性」-「ネットワーク/関係性」という2つの軸で、実際にリサーチの手法を整理してみましょう。

これまでのリサーチの核になっていたのは、「Survey(質問紙調査)」、および「Group Interview」「Personal Interview」という2種類のインタビューです。つまり、構成的で個人/独立性を重視した手法が主流だったということです(グループインタビューについては「関係性」に位置付けてはいますが、先に書いたように、実質は個人の意見を聞いているようなことが少なくありませんでした)。
ただし、その周辺に位置付けられている手法の中でも、「Observation」や「Panel Data」「Diary Data」などは、これまでも行われていましたが、リサーチ手法として注目されていませんでした。しかし、「行動観察」や「エスノグラフィ」という新たな視点で捉え直されたり、IT技術によってデータの収集方法が革新されたことで、新たな手法として注目されるようになったといえます。