拡張するリサーチ手法
では、主流となっていた3つの手法―「Survey(質問紙調査)」「Group Interview」「Personal Interview」と、それを拡張する周辺手法について確認していきます。

事実を確実に把握する
まず、主流の3手法がもつ記憶による回答の弊害を除くために、より独立性を重視する=事実を確実に把握するための手法があります。代表的なものを3つ紹介します。
Panel Data
比較的古くからあったのが「Panel Data」です。Panel調査は、対象を固定し、継続してデータを収集する手法で、そこで集められたデータがPanel Dataです(コンピュータによるデータ収集はここ20年くらいで進化したもので、それ以前は質問紙に記入してもらう形でした)。POSデータ、視聴率データなどのように、固定されたデータ構造の下で必要なデータを集める手法です。
最近ではクレジットカードやポイントカードなどの使用履歴などもここに含まれるようになり、収集できるデータの幅が広がっています。またPanel Dataでは、性別や年齢、職業などのパーソナルデータがあらかじめ登録されていることが多いので、分析の幅も広がっているといえます。これにより、「○○という商品」の購入者を確実に特定したうえで「Survey(質問紙調査)」など他の手法とミックスして、課題に迫ることも可能になってきています。
Diary Data
「Diary Data」も比較的古くから行われています。日記調査、営業マンなどによる活動日誌、コールセンター記録などが含まれます。たとえば日記調査は、あるテーマに沿った行動を、記憶が薄れないその日の内に記録してもらうことで、消費者の実態を明らかにしようとする手法です。携帯端末が進化し普及することで、「まさにその時」の行動を記録することも可能になってきました。営業マンの活動記録も、市場の状況をできるだけ事実レベルで把握するための情報となります。
Log Data
人々がオンラインを通じて行動することが増えてくると、そこには様々な「Log Data」が残されるようになりました。検索記録、サイト上の行動履歴などが該当します。さらに携帯端末やカーナビなどのGPSが有効になっていると、オフラインでの移動データまで収集されることになります。データには、意識的な行動はもちろん、無意識な行動まで記録されています。構成的な質問紙では到底わからない実態を把握する可能性が高まりました。さらに、このデータをモニターし、リアルタイムで集計・分析し、結果により次の施策に反映するというPDCAサイクルを自動化することも可能になります。
行動を通して理解する、自然な発言に注目する
行動や実態を通して人々を理解しよう、あるいは質問への答えではなく自然な発言に注目しようという考え方を背景とした手法も増えてきました。
Observation(観察調査)
人の行動は合理的ではないし無意識で行われていることが多いということが明らかになってくると、意見を聞くのではなく行動、実態を通して人々を理解しようという傾向が強まってきました。そこで、非構成的な「Observation(観察調査)」に注目が集まっています。ホームビジット(※)や店頭観察など人による行動観察はもちろん、アイトラッキング、脳波測定、表情測定のような機器をつかった生体反応の観察、加速度センサーやジャイロセンサー、ICタグなどのセンサーを活用した記録など、一言で観察調査といっても多岐に渡ります。ただ、意見や意識、評価を聞くのではなく、行動という事実を把握して、そこから仮説を得ようという目的は共通です。
対象者の自宅を訪問し、ふだんの生活や行動を見せてもらい、あわせてインタビューを行う手法。自宅なので、いつも通りの行動を見ることが可能となり、家の状況も確認できる点にメリットがある。
Social Listening
ネット上にはブログやtwitter、FacebookといったSNSを通じて、さまざまな意見やつぶやきがあふれています。もちろん発言者本人が気ままに発言したものなので、こちらの聞きたいことが聞けるとは限りません。しかしそこには、アンケートやインタビューでは聞くことのできない、後になっては忘れてしまうかもしれない、日常の瞬間に感じたことや共感したことがリアルタイムで現れています。これらをモニターすること(「Social Listening」)で、他の手法では得られない意識や行動を把握することができ、やはり仮説づくりのための有力な情報になりそうです。
Online Community Research
そして、大きな可能性を秘めているのが、オンラインコミュニティを活用したリサーチです。MROC(Marketing Research Online Community)という言葉が注目されていますが、もちろんこれも含みます。ただし、MROCはリサーチのためのコミュニティという意味合いが強いのですが、企業が運営するコミュニティを対象にリサーチを行うことも視野に入れて「Online Community Research」と呼びたいと思います。
共通の関心をもったコミュニティの中での話題や意見形成などを観察することを通じて、よりリアルな社会に近いかたちでの意識や評価を得ることができます。さらに、この手法で特徴的なことは、コミュニティ内の会話を観察する非構成的なリサーチはもちろん、インタビューや日記のような半構成的なリサーチ、そしてアンケートのような構成的なリサーチまで、さまざまな方法でコミュニティにアクセスすることが可能な点です。さらに、この中のある個人を対象にリサーチを行うと、個人/独立性のあるデータの収集もできるでしょう。
変化するマーケティングリサーチ、その本来の意味を見失っていないか?
マーケティングリサーチとは何か、ここでいま一度、その本来の意味を考えたいと思います。それは、「マーケティングを支援するための研究」と捉えるべきでしょう。そして、研究のために使える手法は、このように大きく拡張しています。「マーケティングリサーチは使えない」という言説は、アンケートやインタビューによる調査自体をリサーチと捉え、本来の意味や拡張しているマーケティングリサーチの可能性を理解できていないことも、大きな要因となっているように思います。
一方で、マーケティングリサーチを支える方法論が、手法の拡張に追いつけていないのも、また事実として認めざるを得ません(とくに、これまでリサーチを活用し、支えてきた人たちの中で)。「ドグマ主義」と揶揄される所以です。
そこで次回は、これまでのリサーチの方法論の中で「変わるべきもの」について、考えていきたいと思います。