仕組みがお客様をスポイルしてしまう
資生堂は2012年4月、総合的なウェブサービス「ワタシプラス」というを開始した。そこでは、商品紹介、ネット通販、Webカウンセリングなどさまざまなサービスを提供し、メーカーと顧客のコミュニケーションの場を構築している。いま、多くの企業がオンラインでの新たなビジネススキームの構築に取り組んでいるが、ふたりの話は、しだいにビジネスの仕組みを構築することのパラドックスにまで踏み込んでいった。
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石川:仕組みがちゃんとすればするほど、最後にお客様がスポイルされてしまう面がある。化粧品ビジネスは、チェーンストアで小売店を組織化し、お客様を愛用者組織で組織化し、組織と仕組みでものを売る業界です。リアルでそうやってきたことの限界が今の成長の限界につながっているとも言えます。同じようなことは、デジタルコミュニケーションの中でも起こりうる。お客様をいかにコントロールするか、CRMで引っ張ってきて、何パーセントの確率でこれをさせて、ああしてこうして……と。
そこには、化粧品を使って喜んでいるお客さんの顔は見えない。これではどこかで「NO」と言われてしまう。最後に商品やサービスを買った人が満足するという流れのなかで、自分たちの仕事がどういう影響を与えられるのかという感覚を忘れてはいけないと思います。

本間:でも、仕組みがスポイルするというのは、やっちゃいませんか?
石川:一生懸命つくればつくるだけそうなりやすい。
本間:広告は片思いのメッセージが多い。「この人買ってくれるだろうな」と思う人にメッセージを送るんだけど、それ以外の人は考えていない。ネット広告はその最たるもので、あの人にバナーを見せようと思ったらその人にだけ。ほかに可能性がある人は無視してしまう。
石川:ブランドというものを考えると、ブランドの評価はそのブランドを使っていない人もつくっているんです。たとえば「ライカってすごい」と思っている人はライカを持っていない人のほうが多いわけです。
本間:あこがれていますからね。
石川:それなのに、「ライカを使わなければライカを評価できない」ということをやってしまったら失敗する。
本間:そうなると、相当広い視点を持って、その中で何をするかもう一回考えなさいと。そのときに、細分化された自分たちの共通言語だけじゃなくて、もっと一般的な用語で話すというのは重要なポイントですね。
本間さんは何を目指しているんですか?
対談の後半には、石川氏から意外な質問も飛び出した。
石川:僕からも本間さんに聞きたいことがあります。本間さんは一体なにを作り上げようとしているのか。一体なにを目指しているのか。
本間:本当は、デジタルだけやってるのは一番イヤなんです。ソーシャルリスニングしたことをそのままウェブだけに戻しても意味はないと思っています。デジタルで得たことをCMの設計に活かしてほしいし、テレビCMや店頭のポップも含めて全部変えるべきかもしれない。
でもそこをやろうとすると、既存の仕事の枠組みを変えなければならない。ハードルはありますが、やれるタイミングじゃないかと思っています。「デジタルに興味あるの?」と聞かれたら、興味ないです。一番興味があるのは「お客さん」です。

石川:それは正解ですね。そこが握れていればどんな仕事をしている人たちもひとつのプロジェクトとしてまとまりますよ。
本間:僕は以前、メイクアップアーティストの人に「女性はメイクしたからキレイになるんじゃない。メイクをすることで自信をもらってキレイになる」と教えてもらったことがあるんです。「メイクをした」という科学的データだけじゃなくて、そういうエモーショナルな部分がデータを増幅することがあると理解しました。
そういう部分に踏み込んだ話は、デジタルの世界にいると聞けなかったりする。そろそろ会社の中の違う部署の人たちともっと話すべきだと思います。そういうところからコミュニケーションのヒントをもらえたりしますから。
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最後には、ふたたびコミュニケーションの問題に帰ってきたふたりの対話。今回のフォーラムの、本間氏の開会挨拶と、第一部のエステー宣伝部長 鹿毛康司氏講演も公開しています。ぜひ、合せてご覧ください。