単一調査の偏重
集まるデータに代表性がないとしたら、調査をする意味がないと思う人もいるでしょう。調査を一度きりのものであり、絶対的なものと考えると、このような判断になるのも仕方ありません。一回の調査に多くのお金と長い時間をかけてきた人、そしてその一回の調査データが、得られるデータのほとんどという経験を持つ人ほど、このような印象を持つかもしれません。
しかし偏りがあることを認識し、どんな偏りがあるかを理解できていれば、ほとんどのデータは意味を持ちます。新聞社やテレビ局が行う調査と、インターネット上で行なわれる調査結果にはギャップがあることが少なくありません。しかし、どちらもある属性をもった人たちの、ある側面を示しているデータだと言えるでしょう。データの背景=どのような人が答えたデータなのかがわかれば、そのデータは意味を持ちます。これらの断片を繋ぎ合わせれば、より全体像の把握に近づくことができるでしょう。

また、代表性に欠けるのであれば、一時点の調査結果で得られる絶対的な数字の大きさ(平均値やパーセンテージなど)自体は参考程度にしかなりません。しかし、同じ偏りの上で検討するのですから、項目間の比較には意味があるでしょう。さらに、同じ方法で調査を続けていれば、そこに含まれる偏りも一定のものになるので、前回に比べてどうなのかという変化を示すデータは意味を持ちます。そして、以前にも増して変化のスピードが速い時代では、ある一時点での数字よりも、この変化やトレンドを把握することが重要になるでしょう。ピンポイントの断面的なデータよりも、継続的なデータの変化をより重視する視点が求められそうです。
さらに前回も示したように、いまでは様々な手法でデータを入手することができます。以前のようにアンケートやインタビューをしないと、ほとんどデータが得られなかった時代とは異なります。この点からも、一本の調査を過度に重視する必要がなくなったといえそうです。
大規模リサーチの時代から、綜合(シンセシス)の時代へ
デジタルの時代は、これまでのように対象者を探すためのリサーチをしなくてもよいかもしれません。プライバシーの問題などクリアしなければいけない課題もありますが、購買履歴から確実にユーザーやノンユーザーを特定することや、過去のリサーチ結果からある特定条件のユーザーを抽出することもできそうです。また、同じ対象者を追跡することで、何かの行動を起こした時々でリサーチを行うことができるかもしれません。
これまでは1回のリサーチで、ユーザーもノンユーザーも、さらには属性も購買過程もブランドイメージも、というように大規模になりがちだったリサーチを、その時々に必要なテーマと対象を絞ったものにすることができるはずです。このことは、対象者の行動とリサーチのタイミングを合わせることにもなるので、記憶による錯誤を小さくすることにも繋がります。さらにテーマを絞ることができれば質問量も少なくなりますから、回答者のダレや飽きを回避することで、回答精度をあげることにもなります。
このように見てくると、1回のリサーチですべてを解決しようとする、大規模サンプル、大量質問にこだわったリサーチの価値は相対的に低下していると言えるでしょう。もっとテーマと対象を絞り込んだ機動性の高いリサーチを重ねることが重要ですし、このようなリサーチが可能になりました。そして、アンケートやインタビュー以外のデータも含めて、様々なソースから得られるデータから情報を抽出し、それらを多面的に検討し、関連付け、綜合<シンセシス>していくという考え方が求められます。