100億円を費やした実践から見えてきた6つのアドテク活用の落とし穴
1.データ活用には社内他部門との調整が必須
まず同社が最初に取り組んだのは、DMPによるターゲティング。Cookie利用の研究から始めたが、意外にもハードルとなったのは情報セキュリティーの問題であった。プライバシーポリシーの策定、データの管理部門についてなど、足掛け半年以上も社内の各部門との議論を重ねて調整を図った。「最終的には経営判断で決定した。個人のデータを扱うには法務やカスタマーサポートとも密な連携が必要だと実感した」と須藤氏は語る。
2.セグメント拡張は手間、またはシステム負荷が大きい
次に着手したのが、セグメントのチューニングだ。リターゲティングの効率は非常に高いが、量の限界があるため、別途ボリュームを増やす策が必要だと感じたという。

そこで、例えばカップルで「じゃらん」を利用したユーザーに「HOT PEPPER」のカップル特集を勧めるなど横方向への展開を試み、各キャンペーンおよびクリエイティブの効果を評価していった。その結果、精度を高くすれば効果はあるが人的な手間がかかること、また自動的なオーディエンス拡張で精度を求めるとサーバー負荷が膨大になることが分かった。かといって、ロジックを軽くすると効果が薄れる。「セグメントチューニングについては、精度と規模のトレードオフ。現実的な案配をうまく探ることが重要だ」と須藤氏。
3.第三者配信サーバーの導入コスト増を吸収する効果をいかに出すか
技術の進化に従って、次に第三者配信サーバーの導入を検討。本格的な基盤づくりを行うべく、集積・予測・最適化・配信の各機能を提供できるプレーヤー約20社を調べて絞り込み、費用を試算し評価した。「結果的に、単独で費用対効果を合わせるのは難しいと感じた。相応の事業規模が必要だろう」と須藤氏は提言する。
4.入稿や設定などの単純業務に工数をとられ、最適化のための付加価値業務を圧迫
また、本来行うべき分析・最適化の業務のための時間を確保できているか。この視点を常に意識いしておく必要性を須藤氏は指摘する。

5.効果改善のための業務にどれだけ時間を使えているか
次にトレンドに挙がり、取り組んだのはDSP。「だが、入稿や審査などの単純業務が膨大になり、効果を可視化して最適化する本来の業務を圧迫し始めた」と須藤氏。
そこで同社では、買い付けと配信効率の最大化を横断的に計算できる最適化エンジンを開発し、同時に中国・大連に業務センターを開設した。東京ではアナリスト3名が最適化エンジンを扱い、大連ではオペレーター11名が各種アドサーバー上の管理画面を扱うという体制を整えた。
「アドテクでは、導入よりも運用のほうが圧倒的に大事だが、本当に重要な業務に時間を割くには、例えば我々が行ったような対策をしなければとても回らない。その点は、広告主も意識していただけるといいのでは」(須藤氏)
6.コストとトラッキングコードの管理ができているか
“意外な落とし穴”の最後に挙がったのは、アトリビューションへの取り組みに関してだ。「アトリビューション分析を踏まえてメディアプランを再構築すると、例えば当社のケースでは全体コンバージョンを1割以上引き上げる可能性も見えてきた」(須藤氏)

だが、現在では運用を止めている。その理由は、コストとキャンペーンのトラッキングコードをひもづける作業に膨大な手間がかかることだという。「本気で運用の改善に取り組むなら、これらの管理が重要になる」と須藤氏は指摘する。